「がん患者が求める医療情報の提供について」
平成17年12月10日
特定非営利活動法人ヘルスケア・リレーションズ
1.総 論
○ がん患者の医療情報ニーズは、一般論としての情報よりは、「自分は治癒するのか」「自分にはどのような治療が適しているのか」「自分はどこの医療機関で治療を受けるのがいいのか」といった個別論としての情報がより大きいと考える。それは、まさにがんと闘っているのは他ならぬ患者本人であり、「がん患者一般がどうか」よりも「自分自身がどうか」が問題だからである。
○ 一方で、5年生存率などの客観的な情報、病気に対する受け止め方や死生観などの主観的な情報については、どちらもニーズがあるものと考える。より効果的な治療を受けるために統計やガイドラインなどエビデンスを追求する資料も必要ではあろうが、「自分はこれからどうなっていくのだろう」という自問に対しては、闘病記などストーリー性のあるナラティブな資料が参考になるからである。
○ したがって、がん患者は、客観的情報・主観的情報のいずれにおいても、個別的な情報を求めていると考えられる。例えば客観的情報については「一般的な5年生存率は何%だが、自分はどうなるのか」、主観的情報については「ある患者はこのように死を受け止めたけれど、自分はどう考えるのか」といったことである。
○ しかし、個別論としての情報提供ニーズは、自分の人生観や価値観に裏打ちされたものであるから、たとえ医療者であっても本人以外の者が勝手に答えを出す性質のものではないと考える。そして、個別的な情報提供ニーズを満たすのはがん患者本人であるとするならば、「がん患者が求める医療情報の提供」には、患者が一般論から個別論に咀嚼し、消化することのサポートも含まれると考えられる。
2.各 論
■患者図書館について
○ がん患者のための患者図書館としては、公的なサービスとして提供されている客観的情報を、患者にとって使いやすい状態に置くことが必要である。これらの情報は、医療技術評価総合研究医療情報サービス事業(Minds)、クリティカルパス情報交換事業(クリティカルパス・ライブラリー)のように、インターネットによって提供されている場合も少なくない。しかし、60歳以上のインターネット利用率が30%に満たない現状を考慮し、患者図書館としてはプリントアウトしてファイリングした形で資料を提供するなど、デジタルデバイドへの配慮が必要である。
○ 他方、がん患者団体でも「治療のフローチャート」等の患者にとってわかりやすい客観的なパンフレット等の情報を発信している場合があり、このような資料の充実を図ることが望ましい。ただし、患者図書室運営のノウハウを持たない病院においては、「どのような資料を置くか」という判断に苦慮することが想定される。そこで、先駆的病院が配置資料リストをインターネット等で公開し、他の患者図書館の参考に供することが望まれる。先駆的病院においては、市民・ボランティア等の代表を交えた患者図書室運営委員会(仮称)を開催し、医療者の視点に偏らない中正な選書であることを担保することが望まれる。
○ 患者図書館については、図書館法に基づく図書館ではなく同法第29条による「図書館同種施設」であることが多い。このため、教育委員会や他の図書館との連携体制を構築しにくい他、著作権法第31条に基づいて図書館資料の複製を行なう上でも支障がある。そのため、先駆的病院においては、可能な限り図書館法上の図書館を設置するとともに、図書館同種施設のための情報提供に努めることが望まれる。
■相談窓口について
○ 患者が医療情報を一般論から個別論に咀嚼し、消化することのサポートを行なう上では「医療サービスを受ける者と提供する者の関係」でない立場からのサポートを望む場合もあり、患者団体や市民団体など病院職員以外に属する相談員が適している場合もある。そのため、相談窓口の一部をこれらの団体に開放し、協働する仕組みを構築することも検討に値すると考えられる。
○ 一方、相談窓口が院内組織の都合で細分化することは、相談の「たらい回し」につながるため望ましくない。がん患者に関しては、社会資源に関する相談、医療安全に関する相談、診療・療養に関する相談・苦情、個人情報保護に関する相談・苦情等のほか、人生に関する幅広い相談が想定される。このようなワンストップサービスを実現するためにも、相談窓口は開設者または管理者(病院長)に直属で設置されることが望まれる。
○ さらに、このような幅広い相談を受けた内容やその後の経緯については、プライバシーの保護に十分配慮しつつも、差し支えない範囲において、職員はもちろん患者一般にもフィードバックすることが望まれる。特に、「相談を受けたことで嬉しかったこと」など患者の感想を公知することにより、相談窓口の利用に対するがん患者の心理的障壁がより軽くなり、さらに相談を受けやすくなると考えられる。
■その他の情報提供について
○ さらに、病気に対する受け止め方や死生観などの主観的な情報は本を読むことに加えて患者同士が話し合う中で得られることも多いため、より敷居の低い語らいの場の場を設けることも必要である。患者が寛ぐための畳敷きの間や、湯茶が用意されて市民と患者が自由にくつろげる空間を設けている病院があるが、このような場を設けることによって患者同士が相談しあう機会を創出できると考える。
以 上