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@ ヘルスケアとリレーションシップ・マーケティング | 和田ちひろ | |||
A 医療連携 | 田城 孝雄 | |||
B 在宅医療は鎹 | 中村 哲生 | |||
C 医療訴訟 | 竹中 郁夫 | |||
D 病院ボランティアの可能性 | 市山 麻子 |
@ 患者とのリレーションシップ構築<前編> | ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング研究会/編 | |||
A 患者とのリレーションシップ構築<後編> | ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング研究会/編 |
リレー連載@ ヘルスケアとリレーションシップ・マーケティング |
和田ちひろ |
杏林大学保健学部保健学科 成人保健学教室助手 |
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1.「e患者」主導の医療サービス
「ゲームのルールが変わった」。伝統的なピラミッド型組織からサービス主導型組織へのシフトを説いた『逆さまのピラミッド』の著者、カール・アルブレヒト氏は現在のマーケットをこう表現している。これまでは供給者(プロバイダー)が決めたルールに従って、市場は動いていた。しかしインターネット人口の増大と利用レベルの向上により利用者同士のコミュニケーション手段が発達した現在、利用者は供給者以上の知識やパワーを持つようになった。今や、市場での交換ゲームにおいては顧客がルールを決める時代なのである。 企業主導モデルは生産志向、製品志向、販売志向、マーケティング志向と時代の流れに沿って4つに分けて説明することができる。まず第二次世界大戦後、供給が需要に追いつかない時期は生産性の向上と広範の流通戦略を行うことが企業の最大の課題であった。生産志向を経て、質の高いものを作れば売れるという製品志向の時代を迎える。昭和30年代に入ると、日本経済は落ち着き、必要最低限の需給バランスが保たれる状態になってきたため、いかに作るかというよりはむしろ作ったものをいかに売るかという販売志向へと比重は移る。ホームドラマで豊かな家庭を描き、購買意欲を高めるという戦略が編み出されたのもこの頃である。高度経済成長が終わり、耐久消費財の需要が一巡すると、何を作れば売れるのかが分からない時代へと突入する。マーケティング調査が盛んに行われ、消費者ニーズの把握や新たな需要の創造が行われるようになったのがマーケティング志向の時代である。 80年代後半より「顧客満足(CS)」という概念が日本にも導入され、一時はブームのようにもてはやされた。しかしバブル崩壊後、まず人員削減の対象になったのがCS推進室であったという[i]。結局はCSも、プロバイダーのルールの中で企業が生き残るための方法論に過ぎなかったのである。 さて医療界でのゲームは、と見ていくと、ほぼ同様の動きであることが分かる。昭和58年までは医師の量的充足に力を入れ、その後高度に進んだ先端医療の中で治療機能が重視され、延命治療が行われてきた。しかしライフスタイルに起因する生活習慣病やストレスなど慢性疾患の増大により、従来の治療第一主義ではなく、死を敗北と捉えない新しい医療モデルが模索され始めた。ホスピスやQOLに関心が寄せられ、治療のアウトカムとしての患者満足(Patient Satisfaction)が重視されるようになった。また経営改善のために前述のCSが医療界にも導入され、患者サービスの改善などが脚光を浴びるようになった。しかし医療界でのCS活動も、「病院が患者に満足してもらう」というプロバイダー主導の発想であることに変わりはなく、依然としてパターナリズムに基づいた考え方から脱却できずにいる。 一方患者はプロバイダーの思惑をものともせず、自らを取り巻く情報環境の中で、独自の成長を遂げている。インターネットでは世界水準の治療法を知ることもできるし、ネットでの医療相談やセカンドオピニオンの浸透、マスメディアによる医療情報の公開などによって患者自身が判断基準や選択眼を持つことができるようになりつつある。従来の患者会だけでなく、オンライン上での同病患者同士のコミュニティが形成されることによって、急速なスピードでの体験的知識の共有がなされている。最近では闘病記専門の古書店もでき、闘病記を自分で探さなくてもお勧めの闘病記が紹介してもらえる[ii]。闘病記をホームページに掲載する患者も増え、自費出版で闘病記を出す苦労やそれらを探す側の苦労も減っている。個人がメディアをもち、情報の発信・受信が従来では考えられないほど容易になってきている。「e患者」の到来によってプロバイダーが情報をコントロールしていた時代は終焉を迎えようとしているのだ。 2.医療サービスの特性 患者の視点から医療サービスの特性について考えていくと、次の4つが挙げられる。まず一つ目は医療サービスのアウトカムはプロセスであるという点である。手術の成功など、最終的なアウトカムが重要であることは言うまでもないが、治療を受けている間の1シーン、1シーンというプロセスにおいても患者は納得したり、不安を抱えたりとアウトカムを出しながら受診している。以前著者は手術の予約をしたにも関わらずキャンセルし、以後来院しなくなったという患者について調査を行ったが、21名中6人が手術までのプロセスで信頼関係が構築されていないために離反していることが分かった[iii]。二つ目は協業性である。サービスはプロバイダーと受け手とが共に作り上げていくプロセスの中に生じる。また受ける医療から主体的に参加する医療へと変わっていくと、情報の偏在性をなくすためにも患者の学習環境を整えることが病院の役割として非常に重要になってくる。リソースセンターの設置などは今後、必須になってくるであろう。三つ目は継続性である。慢性疾患は院内で完結せず、自宅での継続的な自己管理がメインになる。長期的に関わっていく患者は生涯顧客として捉え、その後発症するであろう身体症状やそれに伴う不安を先取りし、病院がまさにパートナーとして生涯傍にいるという安心感を提供することが必要になってくる。山口県光市にある梅田病院では、車に乗る家の赤ちゃんには、退院時ベビーカーシートと一緒に退院してもらえるよう、レンタルショップと提携している。また「しばらくは泣くことだけが私のお仕事です。ご近所のみなさん許してください」という内容のハガキも必要なだけ持ちかえることができる。初産の母親が気づかないであろう部分を先取りしてのさりげないサービスは患者の心を動かし、選ばれる医療機関となるのである。そして最後が個別性である。一律の面会時間の規制を始めとする患者という集団を管理するために当てはめられた多くの規制が個々の患者にも押し付けられてきた。病院の都合を優先させた一律の規制ではなく、個別性の高いサービスが望まれる。 3.ヘルスケア領域へのリレーションシップ・マーケティング応用 これからはこのような特性を踏まえて、今後は患者のルールに沿ったサービス再構築がなされていくわけだが、その方法論として注目されているのがリレーションシップ・マーケティングである。プロバイダー主導の時代は大量生産・大量消費のためにマス・マーケットを狙う、合理的かつ標準的なマス・マーケティングが中心であった。マス・マーケティングの目的は不特定多数のマスを対象にした顧客獲得(Customer Getting)である。売上至上主義で効率性を追求するために、標準化大量生産方式による物的なものが中心に生産され、市場シェアの拡大を目指すために短期的で1回限りの取引・販売がなされていた。それに対して、リレーションシップ・マーケティングは顧客との長期的な関係づくり(Customer Keeping)を目的としている。そのため顧客サービスが中心におかれ、顧客との関わりあいのプロセスの中での対話を重視し、顧客シェアの拡大を目指すために、長期的継続性のある関係作りが行われる。しかし、医療界へのリレーションシップ・マーケティング導入にはいくつか考慮すべき点がある。例えばパレートの80:20の法則(20%以下のコア顧客が総売上の80%以上を占める)に従えば、コア顧客の同定をした上で、コア顧客へのリレーションシップ・マーケティングを展開していく必要があるのだが、医療は公共的性質を持ち合わせているため産業界での取組みをそのまま導入すべきではない。ヘルスケア領域の特性を考慮しながらリレーションシップ・マーケティングの導入について、今後考えていくにあたってHCRM(Healthcare Relationship Marketing)研究会を今年9月に立ち上げた。顧客との長期的な関係作りをするためには病医院を取り巻く様々なステイクホルダー(利害関係者)との関係性にも注目し、サービスの網を広げていく必要がある。本研究会では、このような考えのものにメーリングリストやオフラインでの研究会にてディスカッションを行っている。これから一年間、研究会のメンバーが様々なステイクホルダーとの関係づくりについてリレー連載を行う。最後に私達が注目する9つのステイクホルダーについて概説しておく。まず共同者との関係は病診連携に着目し、病院と診療所双方の視点から地域資源の活用について述べていく。次に顧客との関係では医療訴訟や情報開示、患者の学習環境について、職員では各専門職及び、派遣・委託職員との複雑な関係性について扱う。地域との関係では病院ボランティアや患者会、健康関連企業、学校などについて触れてゆく。行政との関係では規制緩和について、医育機関は医局との関係や大学の公開講座など健康教育との関係について取り上げる。また供給者との関係ではアウトソーシングや医療廃棄物の問題について、保険者では、審査機関との関係、メディアではパブリシティや広報活動、第三者機関のランキングなどに触れていく。 引用・参考文献 [i]佐藤知恭:顧客満足を超えるマーケティング.日本経済新聞,15,1995. [ii] http://member.nifty.ne.jp/PARAMEDICA [iii]和田ちひろ:患者はなぜ離反するのか.ばんぶう,no.223,38-41,2000. (平成13年1月号掲載) |
リレー連載A 医療連携 |
田城 孝雄 |
東京大学医学部附属病院 医療社会福祉部 |
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1 医療連携 @前方連携・後方連携 医療連携は、病院から見た場合、前方連携と後方連携に分けられる。前方連携は、紹介率の向上、入院患者さんの確保などであり、後方連携は、逆紹介、退院患者さんの在宅医療への移行、リハビリテーション病院・療養型病床群・老人保健施設などへの転院・転所であり、平均在院日数短縮、適切な場での適切な医療の提供、在宅医療の推進、外来患者・入院患者比の適正化、外来患者数の適正化につながるものである。 A医療連携の双方向性 医療連携の特徴は、その双方向性にある。連携には、必ず相手が存在し、一方的な連携はあり得ない。患者さん・御家族の利益・恩恵が最優先であるが、連携相手のメリットを考慮しない連携はあり得ない。大病院が無理に連携を迫っても長続きしない。CS(Customer Satisfaction)でいうところのYou win,I win.であり、連携相手が満足しない連携は長続きせず、真の連携とはいえない。 B医療連携の普遍性と特異性 先日、鳥取大学附属病院で医療連携のセミナーがあり、二つの大学病院の医療連携を比較する機会があったが、鳥取大学附属病院の継続看護相談室の太田婦長が行っている手順と東大病 院の柳澤婦長・若林MSWが行っている手順とまったく共通であった。 しかし、一方で、社会資源(医療機関)などは、地域により異なるので、地域による特異性が認められる。また疾患により、医療連携の中身が異なる。がん、脳血管疾患後遺症、神経難病、臓器移植、糖尿病、虚血性心疾患などにより、連携ネットワークの範囲、中心となる医療機関が異なる。疾患別の医療連携ネットワークの構築が必要である。 2 医療速携の多様な側面 @病院経営改善 医療連携は、紹介率の向上、入院患者数の確保、平均在院日数の短縮、外来・入院患者数比の適正化につながり、21世紀においては、病院経営・運営に欠かせないものである。急性期病院であれば、急性期病院加算・急性期特定病院加算を目指すために必要である。 A患者サービス 欧米では、退院後の適切なケアの計画作りと、必要なサービスのアレンジまでが、病院の基本的責任であり、入院中の医療の質を向上させるだけでなく、退院により始まる長期の療養生活に対しても専門的な立場から援助しなければ、もはや病院として社会的責任を果たせなくなってきていると認識されている。円滑な早期退院は、患者さん・御家族の満足度向上につながり、退院支援・医療連携は、患者サービスの一環として、病院にとり重要な機能である。 B地域医療の完結 医療機関の機能分化が進んで、一つの医療機関では医療が完結しない。しかし患者・家族にとっては、治療の途中で退院を迫られても困ってしまう。地域でネットワークを組んで、地域住民の医療を完結しなければならない。疾息の種類により、ネットワークを展開する地域の範囲が異なる。 (例えば、臓器移植が必要な場合は、広い範囲で連携しなければならないし、高度先進医療を行う病院間の連携となる) Cリスクマネジメント ハイリスク手術は、手術件数が多いほど、医療事故発生率が低い。地域で、心臓手術などのハイリスク手術を、特定のセンター病院に集中するほうが、医療事故が減少する。私は、これを地域・医療圏におけるリスクマネジメント、「エリアーリスクマネジメント」と呼んでいる。 D臨床試験 特定機能病院・大学病院は、研究を行い医療の発展に貢献する社会的使命も持っている。EBMのため大規模追跡調査を行う必要がある。しかし医療制度改革では、外来機能は診療所、大学病院は入院医療中心となり、大規模追跡調査を行うためのみに大学病院で外来患者を確保することは困難となる。外来患者中心の、大規模追跡調査を行うためには、医療連携が必須となる。 E医療連携からのマーケティング 医療連携を進めることにより、自分の医療機関で必要な機能と、他の医療機関に任せるべき機能が、明らかになってくる。他の医療機関に任せたほうがよい機能を、無理に維持せず、必要な機能を充実させるほうが、経営上有利となる。連携を進めるにつれ、自分の医療機関が目指すべき姿が浮かび上がってくる。これが医療連携によるマーケティングである。 3 東京大学附属病院の医療連携 医療制度改革では、医療資源の効率的な配置およびサービスの効果的な提供を目指し、医療施設の体系化が図られている。しかし、現状では、高度医療機関での治療を終えた患者が、必ずしも地域のかかりつけ医や療養型病床群等へ円滑に戻されているわけではない。東京大学医学部附属病院は、特定機能病院という性格から、難病、重症の患者が多く、診療圏が広いという特徴を持っている。高度先進医療の開発と提供という社会的使命を持っているため、患者は完治して退院するより、障害を抱えたまま退院せざるを得ない場合が多い。また、神経難病、膠原病、慢性心不全、慢性呼吸不全のように在宅医療の必要な患者も多い。救命救急医療の進歩により、脳血管障害や事故を救命した後、長期間のリハビリ・テーションの必要な患者が多く、在宅医療への移行が困難な事例が多い。 この点をふまえ、平成9年4月に、東京大学医学部附属病院医療社会福祉部は、患者・家族に満足感を与える円滑な早期退院を促すため、診療科から独立した中央診療部門として、院内各診療科・部門および地域の関係諸機関・施設との連絡・調整を行い、患者が適切なケアを適切な場で受けられるように、退院支援・病病連携・病診連携を行う部門として、設置された。入院患者およびその家族に、退院後の医療・保健・福祉に関する様々な問題を、予め検討し、患者ごとに適切なケアマネージメントを実施し、円滑な早期退院を行い、医療資源の有効活用に寄与する部として期待されている。 4 東京大学附属病院の退院支援の結果 @退院支援依頼診療科 内科系・外科系を問わず、すべての診療科から、退院支援の依頼があった。これにより、退院支援の機能は、特定の診療科に帰属するものでなく、すべての診療科が利用できる中央診療部門に所属すべきであるといえる。 また小児科や小児外科からの依頼があることは、重症児が入院している特定機能病院の特性といえる。 A退院支援依頼症例の疾患 神経難病、膠原病、脳血管障害、脊柱管狭窄症などの整形外科疾患等のADLの低下をきたす疾患や、慢性心不全、虚血性心疾患などの循環器疾患、慢性呼吸不全等の呼吸器疾患、痴呆の症例が対象となっているが、退院援助の依頼症例の34%が、白血病、悪性リンパ腫を含むがん患者であることが最大の特徴であるといえる。一般病院では退院支援例の約40%が、脳血管障害による寝たきり等の患者であるが、東京大学医学部附属病院は、これと異なりがんの患者が多い。これが特定機能病院である大学病院の特徴といえる。特定機能病院における退院援助には、在宅ホスピスケアの充実が必要であると考えられる。 B退院支援チーム・在宅医療コーディネーターの効果・有用性 7都県23区41市町に住所を有する症例の援助を行い、67訪問看護ステーション、31診療所、14在宅介護支援センター、63病院、8老人保健施設と連携を行った。病院内の窓口を一本化することにより、92症例で67の訪問看護ステーションと緊密な連携をとることができた。 初めのl年間は、退院後在宅医療に移行し、訪問看護を利用した割合が、20.9%であったが、次の1年間は訪問看護ステーションを利用し、在宅療養を行う症例は、症例数として2.6倍、依頼症例に対する割合も約2倍になった。 訪問看護ステーションとのコーディネーションを行う専任の看護婦長(在宅医療ゴーディネーター)を当部に置くことにより、在宅医療への移行が推進された。以前であれば、在宅療養の希望はあるが、不安もあり在宅療養を躊躇して、入院療養を継続していた症例に対し、訪問看護ステーションとのコーディネーションの経験を重ねた専任の看護婦長が、患者・家族の意向をくみ、さらによく説明することにより退院に伴う不安を取り除き、訪問看護婦による在宅ハイテクケアを利用した在宅療養への意欲を尊重することができた。これにより在宅医療へ移行する症例が増えたといえる。また、主治医や病棟看護婦も、在宅医療の可能性へ理解を示し、患者・家族の在宅療養への強い意思を尊重するようになった。 5 まとめ 特定機能病院に医療連携・退院支援を専門に行う部門を設置し、多職種の専任スタッフ(退院支援チーム)を配置して全診療科の入院患者を対象に退院援助を行うことにより、患者さん・御家族が満足する円滑な早期退院が可能になった。これにより平均在院日数が短縮し、特定機能病院の高度先進医療を、国民に広く効率的に提供することが可能となると考えられる。 (平成13年2月号掲載) |
リレー連載B 在宅医療は鎹 |
中村 哲生 |
医療法人社団黎明会 大塚クリニック事務長 |
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はじめに 大塚クリニックは東京都豊島区を中心に10区の在宅医療を行っています。現在の患者数は約200名。平成7年に在宅医療を始めた当初の患者さんは脳梗塞後遺症等いわゆる「寝たきり老人といった方が多かったことを記憶していますが、最近では未期癌の方や人工呼吸器を装着された方など医療依存度の高い「ハイテク在宅」に部類する方々が増加しています。 在宅医療を中心としたネットワーク 在宅医療は、介護保険施行以前から各機関との連携が当たり前に行われてきました。医療連携〈病診、診診)、介護連携、福祉連携(行政)業診連携等、各機関との連携によるメリットは次章以後に記載致しますが、在宅医療が如何に複数機関と連携を行っているか図1で紹介を致します。(大塚クリニックから発行する書類は年間約6000枚) 1 医療ネットワーク 文章のタイトルを在宅医療は盤(かすがい)とさせて頂きました。“柱は特定機能病院”“梁は後方支援病院”、そして“鎹は在宅医療”と例えますが、各病院はその病院の役割を分担すること、そしてその接着剤として在宅医療機関をうまく利用することで経営上人きなメリットが得られます。 厚生省の政策誘導によって90日を超える老人の入院患者の取り扱いに関し、平成12年9月までは180日の特例がありましたが、特例期間も終わり、長期入院患者の追い出しが加速したとの声も報告されています。また大病院のMSWからお話を聞くと、「数年前と比較すると在宅医療機関へ直接紹介することが以前より難しくなった」という声もあります。その理由は「手術後にリハビリを終えて在宅へ移行するまでの期間があまりにも短か過ぎる」というのです。確かに大塚クリニックの新規患者の動向を見ても、以前は大学病院から直接紹介を受けていたような患者さんが、一度、他の病院を経由して、クリニックへ紹介されるケースも増加しています。これまでも厚生省は施設から在宅へ移行するような政策誘導をしてきましたが、最近では急性期のリハビリへの点数を厚くするなど病院の役割分担をわかりやすく、また平均在院日数の縛りなどによって患者さんの流動化を行っているようです。 大塚クリニックは一般の医療機関らしい設備投資は殆どありません。しかし、人海戦術でしか対応ができない在宅医療では、人件費という固定費が莫大にかかります。しかも人件費は設備投資のように割賦というわけにはまいりませんので、人件費の先行投資は莫大です。逆にいうと設備投資がないからこそ在宅医療がなりたっているともいえます。しかし設備がないことを何処かでカバーしなければなりませんが、後方支援病院の役割が大きくクローズアップされます。大塚クリニックが現在後方支援病院としてお願いしている医療機関は8病院です。専用ベッドを確保して頂いているところ、検査入院時の患者搬送を無料でしてくれる病院もあります。お陰様で大塚クリニックでは24時間、365日、緊急入院で困ったことはありません。緊急を伴わない検査入院では無料搬送をして頂くことによって、患者さんも民間救急搬送等にかかる費用が軽減されます。 ここからやっと本題に入りますが、後方支援病院との連携によるメリットを記載させて頂きます。 @患者家族のメリット・定期的に検査入院をすることによって家族を介護疲れから解放させることができる。 Aクりニックのメリット ・在宅では普段できないような検査ができ、データを後方支援病院と共有することができる。後方 支援病院活用によって、高額な医療機器の設備投資を抑えることが可能。 ・緊急時の入院先の確保。 B後方支援病院のメリット ・短期の入院により、平均在院日数の短縮が図れる。 ・6月、9月などベッド稼働率の低い時期のベッドコントロールが可能。 ・高額医療機器稼動率に貢献。 ・紹介率アップに貢献。 現在大塚クリニックが後方支援病院へ入院を依頼する患者数は月平均27名、年間の延べ人数は330名となっている。 2 医療ネットワーク 「寝たきり老人退院時共同指導料」という算定項目が存在します。「寝たきり老人退院時共同指導料」は退院後に適切な在宅療養が確保されるよう患者の退院に先だって、病院の医師と退院後主治医となる診療所の医師が共同で指導を行った場合に算定できる指導料ですが、点数が付くとか、付かないということよりも、紹介患者さんからすれば、病院、診療所の両方の医師と一緒にカンファレンスを行い、本人の前で在宅は何処までのことができて、急変時には元の病院が責任をもって再入院を受け入れることなどを確約してもらうことで、医療不信なく在宅療養生活を開始することができます。患者さんからすれぱ、両機関の医師が顔を合わせることで本当に連携しているんだという安心感も得られます。紹介病院の医師も今まで自分が診てきた患者さんが、次にどんな医師に診てもらえるのか顔を合わせるわけですから、安心して送り出すことができるのでばないでしょうか。 病診連携といいながら、実際には紹介状という紙一枚で患者さんか紹介されることも多いですが、在宅療養開始時に、患者さんが「〇〇病院から、追い出された」といって前の病院への医療不信から開始する在宅医療もあります。医療不信から始まる在宅医療は、患者と医師の人間関係ができあがるまでの時間ば、他の在宅患者さんと比べると数倍は長くなります。職人さんの格言に“段取り八分”ということがいわれますが、正に在宅医療も共同指導による段取りで在宅医療の80%は完成致します。 在宅医療にかかわらず各病医院でも新たなネットワーク作りが急務となっています。これまでも各病医院では医師会を通じた、患者の紹介システムやかかりつけ医制度など、行政も交えたネットワークはありました。平成12年4月から施行された介護保険では民間企業も参画した「業診連携」なる形態も医師会との反発や多少の社会問題化もありますが確実に定着し始めています。大病院でも独自のネットワークとノウハウを構築しています。前月号の筆者であります、東京大学病院の田城先生は、正にその先駆者であり病院と診療所との懸け橋となるべく独自のネットワークと情報によって、逆紹介を推進し、東大病院の地域における役割を明確化にしています。このようなネットワーク作りを推進しなければならなくなった背景には厚生省の強烈な政策誘導の影響があります。しかし全国的には、まだネットワーク型の病院経営よりも囲い込み型の病院経営の方が多数を占めていると恩います。単に東大病院だけが東京モデルとして完結してしまうのではなく、今後は全国にネットワークが広がるのでしょう。病院経営の形態は完全な囲い込み型の経営とネットワーク型による機能分化を明確化にした経営形態と二極化へ向かうのでしょう。そんななか、ネットワーク型を推進する医療機関にとって、在宅診療所は介護事業者や生活者にとっても接着剤的役割を担い、病院経営上、大きな影響を与える存在となるかもしれません。 +ネットワーク 時代の流れと共に医療界のキーワードにもなりつつある「患者情報の共有化」、「遠隔医療」、「病診連携」、「カルテ開示」等はいずれも森内閣の目玉商品のITですが、病診連携や介護保険において、今後、最も必要とされる分野です。医療費の増大に伴う合理化的な発想が強いようですが、在宅医療によって単に医療費の抑制という意味合いの推進をするのではなく、障害者の入院患者さんの在宅勤務など、若い患者さんへの在宅医療推進によって、社会的なプラス面も見る必要があるのではないでしょうか。入院中にかかる医療費がいくらで、在宅医療だといくらだという議論も確かに大切かもしれませんが、障害者の方の社会復帰、在宅勤務、ちょっと古い言葉になってしまいましたがS0H0が向かう一つの方向があるかもしれません。結果GDPに反映すれば、医療費削減以上の効果もあるのかもしれませんね。 医療執筆通携 これまで医療連携についてお話をさせて頂きました。このシリーズは執筆連携となっていますので、私は東京大学病院医療社会福祉部の田城孝雄先生よりタスキを頂きました。そして次の走者であります、もなみ法律事務所の竹中郁夫先生に再ぴタスキをお渡しするわけですが、在宅医療現場では医師の方々は医療行為のみでなく、患者さんの生活全般に関し、いろいろな相談を受けます。平成12年4月は介護保険だけでなく、成年後見制度の規制緩和もありました。実際に規制緩和後にそれらしき相談はまだきておりませんが、平成11年度には2件それに関する相談がありました。患者さんのご家族からの相談ですが、「その患者さんに意思判断能力かないことを法廷で証人となってほしい」というもので、患者さん名義のご自宅を売りたいとのこと、もうl件は逆に「家を売却したいが、この患者さんは意思判断能ガがあるから、長男は代理人として正当であることを証言してほしい」といった相談でした。実際に意思判断能力のない方は植物状態であり、意思判断能力のある方は首から上はなんの問題もない方でしたが、我々は患者さんのご家族に協力することで、後で骨肉の争いに巻き込まれてはしまうのではないかという心配がありましたので、弁護士の先生の所へ相談に行ったことがありました。その後、法律事務所にて家族会議を開いてもらい、弁護士先生の判断で「協力OK」ということとなり、裁判所ヘレポートを書いたことがありました。在宅医療を推進していくくあらゆる社会資源を活用しなければならず、これまでとは違った連携を駆使することで、患者さんとそのご家族の療養生活へのお手伝いが可能となるのです。 (平成13年3月号掲載) |
リレー連載C 医療訴訟 |
竹中郁夫 |
もなみ法律事務所 弁護士・医師 |
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1.医療事故の多発 医療事故の報道が連日マスコミをにぎわせている。昨年は連日のように医療事故のニュースが新聞や雑誌の紙面を埋めた。さらに年が明けてからは、過失による医療事故を通り越して筋弛緩剤等を使用しての殺人罪被疑事件まで立件されようとしている。医療の安全性についての市民の信頼感は大きく揺らぎつつあり、安全配慮について真筆に取り組みつつある医療機関や医療者にとっても非常にアゲインストな風の吹きすさぶ社会心理状況にある。このような状況のもと医療機関ではリスクマネジメントへの関心を高めざるをえず、事故防止委員会や医療事故対策専門スタッフの創設などその対策に乗り出す医療機関も増加しつつある。しかし、医療組織は半社会主義的な健康保険制度に順応してきた故事来歴から、なかなか時代の変化に対応できない硬直化を免れておらず、また医療政策の適迫や医療経営の困難からくる不自由さは、この大変な事態の改善や変革を簡単に許す状況にはない。本格的に医療事故防止対策を講じるためには、医療経営、人事管理等医療インフラに根本的な手を加えてドラスティックな自己変革を必要とすることから、医療機関や医療者にとっても相当な勇気を必要とする。 1999年米国科学アカデミ−の調査結果では、年間少なく見積もって4万4000人、多く見て9万8000人の医原性死亡者が生じていると推計されている。米国では90年代当初より多数の病院から任意抽出した数万の患者の病歴を検討する作業がなされており、入院患者の約1パーセントの人々が医原性の障害を受けており、その中の約3分の1は医療過誤によるものと推計されている。日本ではこのような詳細な調査はなされておらず、当然このようなデータは存在しないが、米国においてはわが国と比較にならないほどに医療訴訟による厳しいフィードバックがかかっていること、また日本政府がクリントン政府のごとく学術会議に医療過誤調査を委託するようなことは当面とても想像もできないこと等の制度的懸隔から、わが国が米国より医療事故防止能が高いとは到底思われないゆえ、人口比から少なく見積もっても、わが国においても少なくとも交通事故死数を優に凌鷺する医原死が発生しているものと推測される。 米国の労災保険会社の研究部長であるハインリッヒ氏は多くの労働災害事例を調べ、統計的処理を行い、ある法則性を見出した(ハインリッヒの法則)。ハインリッヒ氏が50万件以上の事例を調べたところ、重傷が約1700件、軽傷約4万9000件、これに対して危うく傷害を免れたものが約50万件あったことが判明した。これを比率で表すと、重傷1件に対して軽傷29件、危険300件ということになる。つまり、これを医療事故に類推すると、ひとつ重大事故が発生したうらには、30件近い軽微な事故があり、ニアミスは300件近く発生していると推測される。最近、医療現場では「ヒヤリハット」研修など医療事故のニアミス例を中心に看護婦の研修会が実施される機会が増えている。このような機会も、単に事例を「今後、気をつけましょう」とプレゼンテーションするのみに終われば、その効用は小さいものとなる。医師や事務、経営者を含めた全体的システムの改善、改革を目指した取り組みが行われない限り、ハインリッピ氏が教えてくれた経験則を再現することに終わりかねない。 2.医療訴訟の多発 平成元年に350件余りであった医療訴訟の新受件数は、この10年余りでついに600件を超え、ほとんど竜倍増のぺースにある。また、この増加率は、民事一般事件の増加率のおよそ倍のペースでもあり、医療訴訟の増加は絶対数でも増加率でもうなぎのぼりの超勢といってよい。医療訴訟は、典型的な専門的な専門領域訴訟であり、必要審理期間は通常事件の2倍、3倍と遅延する傾向にある。通常の事件ならばせいぜいl年以内で解決する程度の事件が、医療訴訟ならば2年、3年とがかることになる。最高裁判所も専門領域訴訟の遅延傾向に、何らかの対策を必要とする認識のもと改善策を模索している。司法改革議論の中で、専門家(医師)を加えた参審制を導入すべきかどうかや鑑定人をいかにプールするかの議論も交わされている。ところで、医療訴訟の遅延傾向には昨今の厳しい金融情勢もからんでいる。多くの医師は医師賠償責任保険に加入しており、医療訴訟が提起されたとき、ほとんどの事件は損害保険会社のサポート、スーパバイズのもとに被告(医療側)の応訴対応がなされる。もともと医師賠償責任保険は、現在の20万人余りの医師や医療機関のすべてが加入したと仮定しても(実際には未加入の医師も相当数いる)、現行の保険料率のもとでは(医師個人では年間5万円前後の保険料負担)、せいぜい200億円前後の総保険金をまかなう財政規模と推計される。損害保険会社はこの規模を十分な財務環境と認識していないようで、医療訴訟増加、被告(医療側)敗訴率増加、金融情勢悪化の環境下にあって、できる限り画布のひもを厳しく締める傾向にある。これらのバックグラウンドから、和解によって解決ざれてもよさそうな事件もあくまでも判決が出るまで粘り腰を貫く、あるいは一審で敗訴しても上訴に至り勝ちである。 もちろん、こうはいっても過失の明白な医療事故は、提訴前に示談で解決することが多いし、また提訴された事件も約半数は和解が成立する。敗訴に至ることが明らかに予想される明々白々な医療過誤事例について、被告側が粘りに粘ったところで敗訴判決に至れば、被告医療機関や被告医師にとっては法的責任を原告(患者側)に負うことが明確になるだけでなく、対社会的にもマイナスのパブリシティを付与されることになり、また損害保険会社は損金賠償額に判決履行までの金利を加算しなければならず、ともに訴訟を遅延させるインセンティブに欠ける。それゆえ、このような事件の多くは提訴前に示談で医療紛争は解決され、仮に訴訟に至ったとしても損害額の圧縮が被告側のモチーフの大半である。原告(患者側)被告(医療側)の両当事者が互いに護らず、裁判所の和解勧告も奏効しなかった、喩えていうならば「難治症例」が判決を受けるまで残ることになる。このような事件は、一般的に過失の有無、不良結果と診療行為の因果関係の判断が微妙なケースや患者へのインワォームド・コンセント形成や接遇の問題で両当事者間にルサンチマンの顕在・伏在するケースが多い。実務家の間で、このような事件の原告(患者側)の勝訴率は3割ないし4割といわれているが、最近は徐々に勝訴率も伸びつつある印象である。 3.医療訴訟と波紋 医療訴訟の提訴が新聞報道されるのは日常茶飯事になっているが、その後の訴訟進行の様子は医療過誤特集でも組まれない限り報道されることは少なく、あとは散発的に被告(医療側)有責でいくいくら賠償せよという判決が出たと報道される程度である。このような判決出たからといって患者の多くが受診先を替えるといった現象は、明確に認められてはいない。このことから、「医療訴訟が提起されたり、その被告(医療側)が敗訴したという情報は、決して患者の医療機関選好に大きな影響は与ない」と強弁する被告側弁護士 もいる。確かに他の患者が医療の結果を不良と主張して医療訴訟に訴えたからといって、今すぐ自分の受診先を変更しようとする動きにはなってはいないだろう。しかし、冒頭でも述べた通り、市民は医療の安全性やインフォームドーコンセントについて大きな危惧悪を抱いていることは事実であり、より自分にフィットした医療選択や医僚機関選択を可能にしてくれる医療情報を渇望している。医療機関の広告規制緩和はこの ような時代的潮流に呼応したものである。世はインターネットをはじめとするIT革命の時代に突入し、原告(患者側)が自分の訴訟の訴状、答弁書、準備書面、証人尋間内容等々を詳細に提示するホームページも増えつつある。病院広告をポジティブなパブリシティであるとすれば、原告側の医療訴訟レポートは非常にネガティブなパブリシティである。仮に、私自身が、ある病院をインターネットのサーチエンジン(検索手段)で引いてみると、患者の医療訴訟の体験レポートが飛び出てきて、医療事故の生々しい態様やインフォームドーコンセントをないがしろにした診療の物語が切々と語られているのに遭遇するとしたら、よほどその医療機関への受診が必須でないかぎり、受診することに躊躇を覚えるであろう。 このような時代にあって、医療機関や医療者にとって、医療訴訟は法廷といった狭い空間の問題でなく、社会に対する、そしてまた未だ見ぬペイシャント、クライアントに対する強いアカウンタビリティを発揮すべき場といわなければならない。さもなければ、患者離れという大きなフィードバックを余儀なくされるだろう。 (平成13年4月号掲載) |
リレー連載D コミュニティとのリレーションシップ ―病院ボランティアの可能性 |
市山麻子 |
HCRM研究会 | |
日本でも「ボランティア」という言葉が近年、急速に社会に浸透してきた。きっかけは阪神大震災でのボランティアの活躍だといわれている。最近では中学・高校生の教育のために、ボランティアを義務化させるかという議論まで巻き起こっている。今回は、医療における関係性マーケティングの中でも「病院ボランティア」の存在に着目し、病院とコミュニティをつなぐ役割について述べてゆきたいと思う。 1. 病院ボランティアの活動と歴史 特定非営利活動法人(NPO法人)「日本病院ボランティア協会」(※1)によると、活動の内容は大きく分けて4つである。@患者さんの生活を豊かにする支援活動(話し相手、本読み、小児の遊び相手、学習指導、本の貸出、園芸、ギフトショップや喫茶部の運営、各種行事の企画運営など)、A病院の開放・市民参加活動(外来入院案内、受付案内、外国語・手話の通訳、子守り、裁縫・修繕など)、B患者さんの身辺雑事の補助活動(清掃、買い物の手伝い、花の水換え、おむつたたみなど)、C介護補助(食事介助、院内移動介助、入浴介助、配膳の手伝いなど)、である。各病院によってその活動内容は若干異なるが、たいていはこの分類に含まれる。 病院ボランティアの活動の歴史は1962年にさかのぼり、産婦人科医の広瀬夫佐子氏がボストンの病院で働くボランティアを見たことをきっかけに、3人の美容師と一緒に大阪の淀川キリスト病院で活動を開始した。3年後には270名に増え、その後他病院でも導入されるようになった。また、自分や家族が病院にお世話になったことがきっかけとなって、地域の住民から自然発生的に「おむつたたみ」や「本の読み聞かせ」のボランティアが始まったところもある。活動は各地で地道に続けられ、その参加人数は年々増加傾向にある。 2.日本の病院ボランティアの実態 「日本病院ボランティア協会」(※1)は74年、病院ボランティアグループの連合組織として発足し、34病院が加盟した。(2001年2月8日現在138病院が加盟)病院ボランティアの全国組織としては唯一最大の組織である。ここでは、病院ボランティアの心得、研修プログラム、斡旋システムなどを作り、ボランティア間相互のレベルアップと発展をめざしている。なお、ここに加盟せずに活動しているボランティアグループもあるため、日本全体での活動者数はかなり多くにのぼっているとみられる。 九州大学大学院人間環境学研究院(社会福祉学・ボランティア・NPO論)の安立清史助教授(※2)は、2000年3月、日本病院ボランティア協会の協力を得て、日本で初の大規模な病院ボランティアの調査・研究を行った。(※3)それによると、日本の典型的な病院ボランティア像とは、「性別は女性が90パーセント以上を占め、年齢は40歳代後半から70歳代前半が最も多い。活動は週一回3〜4時間が最も多い」。参加動機は「人生が豊かになる、社会貢献ができる、お世話になった病院への感謝、自分の勉強のため」などである。 3.病院ボランティア実際の活動 それでは、いくつかの場所で実際に活動する病院ボランティアの紹介をしていきたい。 日本には全国で10ヶ所ほどの「病院患者図書館」があり、このうちの数ヶ所ではボランティアが大きな役割を果たしている。ここでいう病院患者図書館とは、患者さんが自分の病気について調べたり、勉強するための医療情報図書・医学書(医学論文を含む)を自由に閲覧できる図書館のことである。室蘭の日鋼記念病院「健康情報ライブラリー」では、地域の「退職校長会」のメンバーが、また新潟県立がんセンター「からだのとしょかん」では「新潟ホスピスボランティアの会」のメンバーがそれぞれ中心となり、患者さんの病気への不安を受けとめるいやしの場を提供している。東京・聖路加国際病院の「さわやか学習センター」、浜松の聖隷三方原病院の図書室などでもそれぞれ訓練を受けたボランティアが活躍している。一般に、予算の都合で病院側が雇える司書は一名の場合が多く、職員図書室と患者図書室の両方を司書が運営することは難しいため、ボランティアが司書と連携して果たす役割はとても大きいといえる。 また、日本でも緩和ケア病棟の増加に伴い、ホスピスや緩和ケア病棟でのボランティア活躍の機会も増えてきた。患者さんのQOLを重視するホスピスでは、様々なニーズに対応できるよう、医療従事者だけでなく、コメディカル、ボランティアをはじめとする多職種が関わる「チームケア」の手法がとられる場合が多い。 上智大学社会人講座の中にアルフォンス・デーケン教授による「ホスピスボランティア講座」が開設されている。この講座は毎年4月から7月まで週一回の計12回の授業で、毎回現場のホスピス医、看護婦、ボランティアが講師となる。講義では、ホスピスの歴史、ボランティアの心構え、実際の活動状況などを説いていく。現在の日本のホスピス事情がコンパクトにまとまっており、ホスピスでボランティアをしたい人にとっての入門編として毎年200名の定員はほぼ満員である。この講座の受講をきっかけに、聖ヨハネホスピスなどのボランティア養成講座を受け、実際にホスピスボランティアをはじめる人も多い。動機は家族をホスピスで亡くしたことがきっかけであったり様々であるが、ターミナルケアの現場であるホスピスで活動することにより、「自分がなにかをしてあげる」ではなく、「患者さんから得る」ものの大きさに気づく場合が多い。患者さんとの出会いを通じて、ボランティアの人格が成長する。病院は、ボランティアにとって死生観を考える、教育の場となりうるのである。 4.病院側の受け入れ態勢 このように市民の病院でのボランティア熱が高まっていく中、受入れ側としての病院の姿勢やシステムの確立が現在最も重要な課題となっている。竹内和泉氏(聖路加国際病院ボランティアコーディネーター、同病院元婦長)によると(※4)、聖路加国際病院では「病院をボランティアでいっぱいにしたい」という日野原重明理事長の理念のもと、現在300名を超えるボランティアが登録し、その中から毎日40〜50名が各持ち場で活躍しているという。ボランティアコーディネーターのマネジメントは、ボランティアの随時募集、毎月一回の面接に始まり、研修、適材適所への配置、シフト作り、活動していく上での困りごと相談やアドバイスなどで多忙を極めるそうである。聖路加国際病院ではボランティアを重要視しているため、専任のコーディネーターが配置されているが、このような恵まれた例はまだまだ少ない。病院をあげての取り組みと実践、聖路加国際病院はボランティア導入が成功しているモデルのひとつであるといえる。 5.ボランティアにやさしい病院づくり 上記のような現状と問題点をふまえた上で、病院は今後どのように病院ボランティアの受入れ態勢を作っていくべきであろうか。一般に病院は専門職による閉鎖性が依然として高く、「素人を病院に入れる」ことに対する医療従事者の抵抗は根強いという。しかし総医療費抑制政策のもと、病院経営をめぐる環境はますます厳しくなり、職員だけで行えるサービスの種類にも限界が来ている。また、職員では手の届かない、患者さんに対するこまやかな配慮も必要となってくる。例えば、ライフプランニングセンターでは「血圧ボランティア」を養成しており、研修を受けることによって、医療の現場で素人なりに活躍できる場を作っている。おしゃべりをしながらリラックスして血圧を測ってもらえるため、病院という不慣れな場で緊張してしまう患者さんたちには好評だそうだ。ボランティアを積極的に養成・登用し、あらたなマンパワーとして活用すること、また地域コミュニティに開かれた病院として存在することはこれからの病院にとって欠かせない視点である。今まではどちらかというと「子育て後の主婦の活躍の場」とみられていたボランティアも阪神大震災やシドニー五輪以降、若い世代の関心も高まっており今後は幅広い年代層に広まる傾向にある。ボランティアの各方面での活躍の可能性は高まっている。これを受け、病院でも院長をはじめとするトップの理解、ボランティアコーディネーターを設置した上で院長や副院長直轄の組織体制をつくること、他の職員への理解を求めること、ボランティアの安全な活動を見守ること(ボランティア保険への加入、感染症対策など)、ボランティアの相談やアドバイスを受けるシステムを作ることなどはすべて重要である。また、欧米では「ファンドレイジング」(資金調達)を担当し、バザーなどで多額の活動資金集めをする専門のボランティアも活躍している。日本では医療法人に寄付ができないなどの規制があるため、現状は活動が制限されるが、これらの資金調達に関する税制の改正も必要である。 患者さんにとっても、病院にとっても、そこで活躍するボランティア自身にとっても、「病院ボランティア」の活動が心の支えとなり、成長のきっかけとなるよう、ますます活動が発展し、これからも多くの人が参加するシステムができることを願う。 ※1「日本病院ボランティア協会」 http://www5a.biglobe.ne.jp/nhva/ ※2「安立清史のホームページ」 http://www.lit.kyushu-u.ac.jp/adachi/ ※3平成10年〜11年度科学研究費補助金(基盤研究C2) 「病院ボランティアの調査」安立清史 ※4HCRM研究会 第2回研究会(平成12年6月17日)講演 「病院ボランティアの活動―ボランティアコーディネーターの視点から」竹内和泉氏 (平成13年5月号掲載) |