提供


平成12年年12月から、ジャミックジャーナルで「Healthcare & Relationship」のリレー連載が始まりました。こちらから掲載記事をお読みいただけます。タイトルをクリックしてご覧下さい。


@ ヘルスケアとリレーションシップ・マーケティング 和田ちひろ
A 医療連携 田城 孝雄
B 在宅医療は鎹 中村 哲生
C 医療訴訟 竹中 郁夫
D 病院ボランティアの可能性 市山 麻子

月刊ナースマネージャの小特集として掲載された「患者とのリレーションシップ構築」もこちらからお読みいただけます。タイトルをクリックしてご覧下さい。



@ 患者とのリレーションシップ構築<前編> ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング研究会/編
A 患者とのリレーションシップ構築<後編> ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング研究会/編





 
リレー連載@
ヘルスケアとリレーションシップ・マーケティング
和田ちひろ
杏林大学保健学部保健学科
成人保健学教室助手
1.「e患者」主導の医療サービス

「ゲームのルールが変わった」。伝統的なピラミッド型組織からサービス主導型組織へのシフトを説いた『逆さまのピラミッド』の著者、カール・アルブレヒト氏は現在のマーケットをこう表現している。これまでは供給者(プロバイダー)が決めたルールに従って、市場は動いていた。しかしインターネット人口の増大と利用レベルの向上により利用者同士のコミュニケーション手段が発達した現在、利用者は供給者以上の知識やパワーを持つようになった。今や、市場での交換ゲームにおいては顧客がルールを決める時代なのである。

企業主導モデルは生産志向、製品志向、販売志向、マーケティング志向と時代の流れに沿って4つに分けて説明することができる。まず第二次世界大戦後、供給が需要に追いつかない時期は生産性の向上と広範の流通戦略を行うことが企業の最大の課題であった。生産志向を経て、質の高いものを作れば売れるという製品志向の時代を迎える。昭和30年代に入ると、日本経済は落ち着き、必要最低限の需給バランスが保たれる状態になってきたため、いかに作るかというよりはむしろ作ったものをいかに売るかという販売志向へと比重は移る。ホームドラマで豊かな家庭を描き、購買意欲を高めるという戦略が編み出されたのもこの頃である。高度経済成長が終わり、耐久消費財の需要が一巡すると、何を作れば売れるのかが分からない時代へと突入する。マーケティング調査が盛んに行われ、消費者ニーズの把握や新たな需要の創造が行われるようになったのがマーケティング志向の時代である。

80年代後半より「顧客満足(CS)」という概念が日本にも導入され、一時はブームのようにもてはやされた。しかしバブル崩壊後、まず人員削減の対象になったのがCS推進室であったという[i]。結局はCSも、プロバイダーのルールの中で企業が生き残るための方法論に過ぎなかったのである。

さて医療界でのゲームは、と見ていくと、ほぼ同様の動きであることが分かる。昭和58年までは医師の量的充足に力を入れ、その後高度に進んだ先端医療の中で治療機能が重視され、延命治療が行われてきた。しかしライフスタイルに起因する生活習慣病やストレスなど慢性疾患の増大により、従来の治療第一主義ではなく、死を敗北と捉えない新しい医療モデルが模索され始めた。ホスピスやQOLに関心が寄せられ、治療のアウトカムとしての患者満足(Patient Satisfaction)が重視されるようになった。また経営改善のために前述のCSが医療界にも導入され、患者サービスの改善などが脚光を浴びるようになった。しかし医療界でのCS活動も、「病院が患者に満足してもらう」というプロバイダー主導の発想であることに変わりはなく、依然としてパターナリズムに基づいた考え方から脱却できずにいる。

一方患者はプロバイダーの思惑をものともせず、自らを取り巻く情報環境の中で、独自の成長を遂げている。インターネットでは世界水準の治療法を知ることもできるし、ネットでの医療相談やセカンドオピニオンの浸透、マスメディアによる医療情報の公開などによって患者自身が判断基準や選択眼を持つことができるようになりつつある。従来の患者会だけでなく、オンライン上での同病患者同士のコミュニティが形成されることによって、急速なスピードでの体験的知識の共有がなされている。最近では闘病記専門の古書店もでき、闘病記を自分で探さなくてもお勧めの闘病記が紹介してもらえる[ii]。闘病記をホームページに掲載する患者も増え、自費出版で闘病記を出す苦労やそれらを探す側の苦労も減っている。個人がメディアをもち、情報の発信・受信が従来では考えられないほど容易になってきている。「e患者」の到来によってプロバイダーが情報をコントロールしていた時代は終焉を迎えようとしているのだ。

2.医療サービスの特性

患者の視点から医療サービスの特性について考えていくと、次の4つが挙げられる。まず一つ目は医療サービスのアウトカムはプロセスであるという点である。手術の成功など、最終的なアウトカムが重要であることは言うまでもないが、治療を受けている間の1シーン、1シーンというプロセスにおいても患者は納得したり、不安を抱えたりとアウトカムを出しながら受診している。以前著者は手術の予約をしたにも関わらずキャンセルし、以後来院しなくなったという患者について調査を行ったが、21名中6人が手術までのプロセスで信頼関係が構築されていないために離反していることが分かった[iii]。二つ目は協業性である。サービスはプロバイダーと受け手とが共に作り上げていくプロセスの中に生じる。また受ける医療から主体的に参加する医療へと変わっていくと、情報の偏在性をなくすためにも患者の学習環境を整えることが病院の役割として非常に重要になってくる。リソースセンターの設置などは今後、必須になってくるであろう。三つ目は継続性である。慢性疾患は院内で完結せず、自宅での継続的な自己管理がメインになる。長期的に関わっていく患者は生涯顧客として捉え、その後発症するであろう身体症状やそれに伴う不安を先取りし、病院がまさにパートナーとして生涯傍にいるという安心感を提供することが必要になってくる。山口県光市にある梅田病院では、車に乗る家の赤ちゃんには、退院時ベビーカーシートと一緒に退院してもらえるよう、レンタルショップと提携している。また「しばらくは泣くことだけが私のお仕事です。ご近所のみなさん許してください」という内容のハガキも必要なだけ持ちかえることができる。初産の母親が気づかないであろう部分を先取りしてのさりげないサービスは患者の心を動かし、選ばれる医療機関となるのである。そして最後が個別性である。一律の面会時間の規制を始めとする患者という集団を管理するために当てはめられた多くの規制が個々の患者にも押し付けられてきた。病院の都合を優先させた一律の規制ではなく、個別性の高いサービスが望まれる。

3.ヘルスケア領域へのリレーションシップ・マーケティング応用

これからはこのような特性を踏まえて、今後は患者のルールに沿ったサービス再構築がなされていくわけだが、その方法論として注目されているのがリレーションシップ・マーケティングである。プロバイダー主導の時代は大量生産・大量消費のためにマス・マーケットを狙う、合理的かつ標準的なマス・マーケティングが中心であった。マス・マーケティングの目的は不特定多数のマスを対象にした顧客獲得(Customer Getting)である。売上至上主義で効率性を追求するために、標準化大量生産方式による物的なものが中心に生産され、市場シェアの拡大を目指すために短期的で1回限りの取引・販売がなされていた。それに対して、リレーションシップ・マーケティングは顧客との長期的な関係づくり(Customer Keeping)を目的としている。そのため顧客サービスが中心におかれ、顧客との関わりあいのプロセスの中での対話を重視し、顧客シェアの拡大を目指すために、長期的継続性のある関係作りが行われる。しかし、医療界へのリレーションシップ・マーケティング導入にはいくつか考慮すべき点がある。例えばパレートの80:20の法則(20%以下のコア顧客が総売上の80%以上を占める)に従えば、コア顧客の同定をした上で、コア顧客へのリレーションシップ・マーケティングを展開していく必要があるのだが、医療は公共的性質を持ち合わせているため産業界での取組みをそのまま導入すべきではない。ヘルスケア領域の特性を考慮しながらリレーションシップ・マーケティングの導入について、今後考えていくにあたってHCRM(Healthcare Relationship Marketing)研究会を今年9月に立ち上げた。顧客との長期的な関係作りをするためには病医院を取り巻く様々なステイクホルダー(利害関係者)との関係性にも注目し、サービスの網を広げていく必要がある。本研究会では、このような考えのものにメーリングリストやオフラインでの研究会にてディスカッションを行っている。これから一年間、研究会のメンバーが様々なステイクホルダーとの関係づくりについてリレー連載を行う。最後に私達が注目する9つのステイクホルダーについて概説しておく。まず共同者との関係は病診連携に着目し、病院と診療所双方の視点から地域資源の活用について述べていく。次に顧客との関係では医療訴訟や情報開示、患者の学習環境について、職員では各専門職及び、派遣・委託職員との複雑な関係性について扱う。地域との関係では病院ボランティアや患者会、健康関連企業、学校などについて触れてゆく。行政との関係では規制緩和について、医育機関は医局との関係や大学の公開講座など健康教育との関係について取り上げる。また供給者との関係ではアウトソーシングや医療廃棄物の問題について、保険者では、審査機関との関係、メディアではパブリシティや広報活動、第三者機関のランキングなどに触れていく。


引用・参考文献

[i]
佐藤知恭:顧客満足を超えるマーケティング.日本経済新聞,15,1995.
[ii] http://member.nifty.ne.jp/PARAMEDICA
[iii]和田ちひろ:患者はなぜ離反するのか.ばんぶう,no.223,38-41,2000.

(平成13年1月号掲載)


 
リレー連載A
医療連携
田城 孝雄
東京大学医学部附属病院
医療社会福祉部

1 医療連携


@前方連携・後方連携
 医療連携は、病院から見た場合、前方連携と後方連携に分けられる。前方連携は、紹介率の向上、入院患者さんの確保などであり、後方連携は、逆紹介、退院患者さんの在宅医療への移行、リハビリテーション病院・療養型病床群・老人保健施設などへの転院・転所であり、平均在院日数短縮、適切な場での適切な医療の提供、在宅医療の推進、外来患者・入院患者比の適正化、外来患者数の適正化につながるものである。
A医療連携の双方向性
 医療連携の特徴は、その双方向性にある。連携には、必ず相手が存在し、一方的な連携はあり得ない。患者さん・御家族の利益・恩恵が最優先であるが、連携相手のメリットを考慮しない連携はあり得ない。大病院が無理に連携を迫っても長続きしない。CS(Customer Satisfaction)でいうところのYou win,I win.であり、連携相手が満足しない連携は長続きせず、真の連携とはいえない。
B医療連携の普遍性と特異性
 先日、鳥取大学附属病院で医療連携のセミナーがあり、二つの大学病院の医療連携を比較する機会があったが、鳥取大学附属病院の継続看護相談室の太田婦長が行っている手順と東大病
院の柳澤婦長・若林MSWが行っている手順とまったく共通であった。
 しかし、一方で、社会資源(医療機関)などは、地域により異なるので、地域による特異性が認められる。また疾患により、医療連携の中身が異なる。がん、脳血管疾患後遺症、神経難病、臓器移植、糖尿病、虚血性心疾患などにより、連携ネットワークの範囲、中心となる医療機関が異なる。疾患別の医療連携ネットワークの構築が必要である。

2 医療速携の多様な側面

@病院経営改善
 医療連携は、紹介率の向上、入院患者数の確保、平均在院日数の短縮、外来・入院患者数比の適正化につながり、21世紀においては、病院経営・運営に欠かせないものである。急性期病院であれば、急性期病院加算・急性期特定病院加算を目指すために必要である。
A患者サービス
 欧米では、退院後の適切なケアの計画作りと、必要なサービスのアレンジまでが、病院の基本的責任であり、入院中の医療の質を向上させるだけでなく、退院により始まる長期の療養生活に対しても専門的な立場から援助しなければ、もはや病院として社会的責任を果たせなくなってきていると認識されている。円滑な早期退院は、患者さん・御家族の満足度向上につながり、退院支援・医療連携は、患者サービスの一環として、病院にとり重要な機能である。
B地域医療の完結
 医療機関の機能分化が進んで、一つの医療機関では医療が完結しない。しかし患者・家族にとっては、治療の途中で退院を迫られても困ってしまう。地域でネットワークを組んで、地域住民の医療を完結しなければならない。疾息の種類により、ネットワークを展開する地域の範囲が異なる。
(例えば、臓器移植が必要な場合は、広い範囲で連携しなければならないし、高度先進医療を行う病院間の連携となる)
Cリスクマネジメント
 ハイリスク手術は、手術件数が多いほど、医療事故発生率が低い。地域で、心臓手術などのハイリスク手術を、特定のセンター病院に集中するほうが、医療事故が減少する。私は、これを地域・医療圏におけるリスクマネジメント、「エリアーリスクマネジメント」と呼んでいる。
D臨床試験
 特定機能病院・大学病院は、研究を行い医療の発展に貢献する社会的使命も持っている。EBMのため大規模追跡調査を行う必要がある。しかし医療制度改革では、外来機能は診療所、大学病院は入院医療中心となり、大規模追跡調査を行うためのみに大学病院で外来患者を確保することは困難となる。外来患者中心の、大規模追跡調査を行うためには、医療連携が必須となる。
E医療連携からのマーケティング
 医療連携を進めることにより、自分の医療機関で必要な機能と、他の医療機関に任せるべき機能が、明らかになってくる。他の医療機関に任せたほうがよい機能を、無理に維持せず、必要な機能を充実させるほうが、経営上有利となる。連携を進めるにつれ、自分の医療機関が目指すべき姿が浮かび上がってくる。これが医療連携によるマーケティングである。

3 東京大学附属病院の医療連携

 医療制度改革では、医療資源の効率的な配置およびサービスの効果的な提供を目指し、医療施設の体系化が図られている。しかし、現状では、高度医療機関での治療を終えた患者が、必ずしも地域のかかりつけ医や療養型病床群等へ円滑に戻されているわけではない。東京大学医学部附属病院は、特定機能病院という性格から、難病、重症の患者が多く、診療圏が広いという特徴を持っている。高度先進医療の開発と提供という社会的使命を持っているため、患者は完治して退院するより、障害を抱えたまま退院せざるを得ない場合が多い。また、神経難病、膠原病、慢性心不全、慢性呼吸不全のように在宅医療の必要な患者も多い。救命救急医療の進歩により、脳血管障害や事故を救命した後、長期間のリハビリ・テーションの必要な患者が多く、在宅医療への移行が困難な事例が多い。
 この点をふまえ、平成9年4月に、東京大学医学部附属病院医療社会福祉部は、患者・家族に満足感を与える円滑な早期退院を促すため、診療科から独立した中央診療部門として、院内各診療科・部門および地域の関係諸機関・施設との連絡・調整を行い、患者が適切なケアを適切な場で受けられるように、退院支援・病病連携・病診連携を行う部門として、設置された。入院患者およびその家族に、退院後の医療・保健・福祉に関する様々な問題を、予め検討し、患者ごとに適切なケアマネージメントを実施し、円滑な早期退院を行い、医療資源の有効活用に寄与する部として期待されている。

4 東京大学附属病院の退院支援の結果

@退院支援依頼診療科
 内科系・外科系を問わず、すべての診療科から、退院支援の依頼があった。これにより、退院支援の機能は、特定の診療科に帰属するものでなく、すべての診療科が利用できる中央診療部門に所属すべきであるといえる。
 また小児科や小児外科からの依頼があることは、重症児が入院している特定機能病院の特性といえる。
A退院支援依頼症例の疾患
 神経難病、膠原病、脳血管障害、脊柱管狭窄症などの整形外科疾患等のADLの低下をきたす疾患や、慢性心不全、虚血性心疾患などの循環器疾患、慢性呼吸不全等の呼吸器疾患、痴呆の症例が対象となっているが、退院援助の依頼症例の34%が、白血病、悪性リンパ腫を含むがん患者であることが最大の特徴であるといえる。一般病院では退院支援例の約40%が、脳血管障害による寝たきり等の患者であるが、東京大学医学部附属病院は、これと異なりがんの患者が多い。これが特定機能病院である大学病院の特徴といえる。特定機能病院における退院援助には、在宅ホスピスケアの充実が必要であると考えられる。
B退院支援チーム・在宅医療コーディネーターの効果・有用性
 7都県23区41市町に住所を有する症例の援助を行い、67訪問看護ステーション、31診療所、14在宅介護支援センター、63病院、8老人保健施設と連携を行った。病院内の窓口を一本化することにより、92症例で67の訪問看護ステーションと緊密な連携をとることができた。
 初めのl年間は、退院後在宅医療に移行し、訪問看護を利用した割合が、20.9%であったが、次の1年間は訪問看護ステーションを利用し、在宅療養を行う症例は、症例数として2.6倍、依頼症例に対する割合も約2倍になった。
 訪問看護ステーションとのコーディネーションを行う専任の看護婦長(在宅医療ゴーディネーター)を当部に置くことにより、在宅医療への移行が推進された。以前であれば、在宅療養の希望はあるが、不安もあり在宅療養を躊躇して、入院療養を継続していた症例に対し、訪問看護ステーションとのコーディネーションの経験を重ねた専任の看護婦長が、患者・家族の意向をくみ、さらによく説明することにより退院に伴う不安を取り除き、訪問看護婦による在宅ハイテクケアを利用した在宅療養への意欲を尊重することができた。これにより在宅医療へ移行する症例が増えたといえる。また、主治医や病棟看護婦も、在宅医療の可能性へ理解を示し、患者・家族の在宅療養への強い意思を尊重するようになった。

5 まとめ

 特定機能病院に医療連携・退院支援を専門に行う部門を設置し、多職種の専任スタッフ(退院支援チーム)を配置して全診療科の入院患者を対象に退院援助を行うことにより、患者さん・御家族が満足する円滑な早期退院が可能になった。これにより平均在院日数が短縮し、特定機能病院の高度先進医療を、国民に広く効率的に提供することが可能となると考えられる。

(平成13年2月号掲載)


 
リレー連載B
在宅医療は鎹
中村 哲生
医療法人社団黎明会
大塚クリニック事務長

はじめに


 大塚クリニックは東京都豊島区を中心に10区の在宅医療を行っています。現在の患者数は約200名。平成7年に在宅医療を始めた当初の患者さんは脳梗塞後遺症等いわゆる「寝たきり老人といった方が多かったことを記憶していますが、最近では未期癌の方や人工呼吸器を装着された方など医療依存度の高い「ハイテク在宅」に部類する方々が増加しています。

在宅医療を中心としたネットワーク

 在宅医療は、介護保険施行以前から各機関との連携が当たり前に行われてきました。医療連携〈病診、診診)、介護連携、福祉連携(行政)業診連携等、各機関との連携によるメリットは次章以後に記載致しますが、在宅医療が如何に複数機関と連携を行っているか図1で紹介を致します。(大塚クリニックから発行する書類は年間約6000枚)

1  医療ネットワーク

 文章のタイトルを在宅医療は盤(かすがい)とさせて頂きました。“柱は特定機能病院”“梁は後方支援病院”、そして“鎹は在宅医療”と例えますが、各病院はその病院の役割を分担すること、そしてその接着剤として在宅医療機関をうまく利用することで経営上人きなメリットが得られます。
 厚生省の政策誘導によって90日を超える老人の入院患者の取り扱いに関し、平成12年9月までは180日の特例がありましたが、特例期間も終わり、長期入院患者の追い出しが加速したとの声も報告されています。また大病院のMSWからお話を聞くと、「数年前と比較すると在宅医療機関へ直接紹介することが以前より難しくなった」という声もあります。その理由は「手術後にリハビリを終えて在宅へ移行するまでの期間があまりにも短か過ぎる」というのです。確かに大塚クリニックの新規患者の動向を見ても、以前は大学病院から直接紹介を受けていたような患者さんが、一度、他の病院を経由して、クリニックへ紹介されるケースも増加しています。これまでも厚生省は施設から在宅へ移行するような政策誘導をしてきましたが、最近では急性期のリハビリへの点数を厚くするなど病院の役割分担をわかりやすく、また平均在院日数の縛りなどによって患者さんの流動化を行っているようです。
 大塚クリニックは一般の医療機関らしい設備投資は殆どありません。しかし、人海戦術でしか対応ができない在宅医療では、人件費という固定費が莫大にかかります。しかも人件費は設備投資のように割賦というわけにはまいりませんので、人件費の先行投資は莫大です。逆にいうと設備投資がないからこそ在宅医療がなりたっているともいえます。しかし設備がないことを何処かでカバーしなければなりませんが、後方支援病院の役割が大きくクローズアップされます。大塚クリニックが現在後方支援病院としてお願いしている医療機関は8病院です。専用ベッドを確保して頂いているところ、検査入院時の患者搬送を無料でしてくれる病院もあります。お陰様で大塚クリニックでは24時間、365日、緊急入院で困ったことはありません。緊急を伴わない検査入院では無料搬送をして頂くことによって、患者さんも民間救急搬送等にかかる費用が軽減されます。
 ここからやっと本題に入りますが、後方支援病院との連携によるメリットを記載させて頂きます。
  @患者家族のメリット・定期的に検査入院をすることによって家族を介護疲れから解放させることができる。
  Aクりニックのメリット
    ・在宅では普段できないような検査ができ、データを後方支援病院と共有することができる。後方
     支援病院活用によって、高額な医療機器の設備投資を抑えることが可能。
    ・緊急時の入院先の確保。
  B後方支援病院のメリット
    ・短期の入院により、平均在院日数の短縮が図れる。
    ・6月、9月などベッド稼働率の低い時期のベッドコントロールが可能。
    ・高額医療機器稼動率に貢献。
    ・紹介率アップに貢献。
 現在大塚クリニックが後方支援病院へ入院を依頼する患者数は月平均27名、年間の延べ人数は330名となっている。

2 医療ネットワーク

 「寝たきり老人退院時共同指導料」という算定項目が存在します。「寝たきり老人退院時共同指導料」は退院後に適切な在宅療養が確保されるよう患者の退院に先だって、病院の医師と退院後主治医となる診療所の医師が共同で指導を行った場合に算定できる指導料ですが、点数が付くとか、付かないということよりも、紹介患者さんからすれば、病院、診療所の両方の医師と一緒にカンファレンスを行い、本人の前で在宅は何処までのことができて、急変時には元の病院が責任をもって再入院を受け入れることなどを確約してもらうことで、医療不信なく在宅療養生活を開始することができます。患者さんからすれぱ、両機関の医師が顔を合わせることで本当に連携しているんだという安心感も得られます。紹介病院の医師も今まで自分が診てきた患者さんが、次にどんな医師に診てもらえるのか顔を合わせるわけですから、安心して送り出すことができるのでばないでしょうか。
 病診連携といいながら、実際には紹介状という紙一枚で患者さんか紹介されることも多いですが、在宅療養開始時に、患者さんが「〇〇病院から、追い出された」といって前の病院への医療不信から開始する在宅医療もあります。医療不信から始まる在宅医療は、患者と医師の人間関係ができあがるまでの時間ば、他の在宅患者さんと比べると数倍は長くなります。職人さんの格言に“段取り八分”ということがいわれますが、正に在宅医療も共同指導による段取りで在宅医療の80%は完成致します。
 在宅医療にかかわらず各病医院でも新たなネットワーク作りが急務となっています。これまでも各病医院では医師会を通じた、患者の紹介システムやかかりつけ医制度など、行政も交えたネットワークはありました。平成12年4月から施行された介護保険では民間企業も参画した「業診連携」なる形態も医師会との反発や多少の社会問題化もありますが確実に定着し始めています。大病院でも独自のネットワークとノウハウを構築しています。前月号の筆者であります、東京大学病院の田城先生は、正にその先駆者であり病院と診療所との懸け橋となるべく独自のネットワークと情報によって、逆紹介を推進し、東大病院の地域における役割を明確化にしています。このようなネットワーク作りを推進しなければならなくなった背景には厚生省の強烈な政策誘導の影響があります。しかし全国的には、まだネットワーク型の病院経営よりも囲い込み型の病院経営の方が多数を占めていると恩います。単に東大病院だけが東京モデルとして完結してしまうのではなく、今後は全国にネットワークが広がるのでしょう。病院経営の形態は完全な囲い込み型の経営とネットワーク型による機能分化を明確化にした経営形態と二極化へ向かうのでしょう。そんななか、ネットワーク型を推進する医療機関にとって、在宅診療所は介護事業者や生活者にとっても接着剤的役割を担い、病院経営上、大きな影響を与える存在となるかもしれません。

+ネットワーク

 時代の流れと共に医療界のキーワードにもなりつつある「患者情報の共有化」、「遠隔医療」、「病診連携」、「カルテ開示」等はいずれも森内閣の目玉商品のITですが、病診連携や介護保険において、今後、最も必要とされる分野です。医療費の増大に伴う合理化的な発想が強いようですが、在宅医療によって単に医療費の抑制という意味合いの推進をするのではなく、障害者の入院患者さんの在宅勤務など、若い患者さんへの在宅医療推進によって、社会的なプラス面も見る必要があるのではないでしょうか。入院中にかかる医療費がいくらで、在宅医療だといくらだという議論も確かに大切かもしれませんが、障害者の方の社会復帰、在宅勤務、ちょっと古い言葉になってしまいましたがS0H0が向かう一つの方向があるかもしれません。結果GDPに反映すれば、医療費削減以上の効果もあるのかもしれませんね。

医療執筆通携

 これまで医療連携についてお話をさせて頂きました。このシリーズは執筆連携となっていますので、私は東京大学病院医療社会福祉部の田城孝雄先生よりタスキを頂きました。そして次の走者であります、もなみ法律事務所の竹中郁夫先生に再ぴタスキをお渡しするわけですが、在宅医療現場では医師の方々は医療行為のみでなく、患者さんの生活全般に関し、いろいろな相談を受けます。平成12年4月は介護保険だけでなく、成年後見制度の規制緩和もありました。実際に規制緩和後にそれらしき相談はまだきておりませんが、平成11年度には2件それに関する相談がありました。患者さんのご家族からの相談ですが、「その患者さんに意思判断能力かないことを法廷で証人となってほしい」というもので、患者さん名義のご自宅を売りたいとのこと、もうl件は逆に「家を売却したいが、この患者さんは意思判断能ガがあるから、長男は代理人として正当であることを証言してほしい」といった相談でした。実際に意思判断能力のない方は植物状態であり、意思判断能力のある方は首から上はなんの問題もない方でしたが、我々は患者さんのご家族に協力することで、後で骨肉の争いに巻き込まれてはしまうのではないかという心配がありましたので、弁護士の先生の所へ相談に行ったことがありました。その後、法律事務所にて家族会議を開いてもらい、弁護士先生の判断で「協力OK」ということとなり、裁判所ヘレポートを書いたことがありました。在宅医療を推進していくくあらゆる社会資源を活用しなければならず、これまでとは違った連携を駆使することで、患者さんとそのご家族の療養生活へのお手伝いが可能となるのです。

(平成13年3月号掲載)

 
リレー連載C
医療訴訟
竹中郁夫
もなみ法律事務所
弁護士・医師

1.医療事故の多発


医療事故の報道が連日マスコミをにぎわせている。昨年は連日のように医療事故のニュースが新聞や雑誌の紙面を埋めた。さらに年が明けてからは、過失による医療事故を通り越して筋弛緩剤等を使用しての殺人罪被疑事件まで立件されようとしている。医療の安全性についての市民の信頼感は大きく揺らぎつつあり、安全配慮について真筆に取り組みつつある医療機関や医療者にとっても非常にアゲインストな風の吹きすさぶ社会心理状況にある。このような状況のもと医療機関ではリスクマネジメントへの関心を高めざるをえず、事故防止委員会や医療事故対策専門スタッフの創設などその対策に乗り出す医療機関も増加しつつある。しかし、医療組織は半社会主義的な健康保険制度に順応してきた故事来歴から、なかなか時代の変化に対応できない硬直化を免れておらず、また医療政策の適迫や医療経営の困難からくる不自由さは、この大変な事態の改善や変革を簡単に許す状況にはない。本格的に医療事故防止対策を講じるためには、医療経営、人事管理等医療インフラに根本的な手を加えてドラスティックな自己変革を必要とすることから、医療機関や医療者にとっても相当な勇気を必要とする。
 1999年米国科学アカデミ−の調査結果では、年間少なく見積もって4万4000人、多く見て9万8000人の医原性死亡者が生じていると推計されている。米国では90年代当初より多数の病院から任意抽出した数万の患者の病歴を検討する作業がなされており、入院患者の約1パーセントの人々が医原性の障害を受けており、その中の約3分の1は医療過誤によるものと推計されている。日本ではこのような詳細な調査はなされておらず、当然このようなデータは存在しないが、米国においてはわが国と比較にならないほどに医療訴訟による厳しいフィードバックがかかっていること、また日本政府がクリントン政府のごとく学術会議に医療過誤調査を委託するようなことは当面とても想像もできないこと等の制度的懸隔から、わが国が米国より医療事故防止能が高いとは到底思われないゆえ、人口比から少なく見積もっても、わが国においても少なくとも交通事故死数を優に凌鷺する医原死が発生しているものと推測される。
 米国の労災保険会社の研究部長であるハインリッヒ氏は多くの労働災害事例を調べ、統計的処理を行い、ある法則性を見出した(ハインリッヒの法則)。ハインリッヒ氏が50万件以上の事例を調べたところ、重傷が約1700件、軽傷約4万9000件、これに対して危うく傷害を免れたものが約50万件あったことが判明した。これを比率で表すと、重傷1件に対して軽傷29件、危険300件ということになる。つまり、これを医療事故に類推すると、ひとつ重大事故が発生したうらには、30件近い軽微な事故があり、ニアミスは300件近く発生していると推測される。最近、医療現場では「ヒヤリハット」研修など医療事故のニアミス例を中心に看護婦の研修会が実施される機会が増えている。このような機会も、単に事例を「今後、気をつけましょう」とプレゼンテーションするのみに終われば、その効用は小さいものとなる。医師や事務、経営者を含めた全体的システムの改善、改革を目指した取り組みが行われない限り、ハインリッピ氏が教えてくれた経験則を再現することに終わりかねない。

2.医療訴訟の多発

 平成元年に350件余りであった医療訴訟の新受件数は、この10年余りでついに600件を超え、ほとんど竜倍増のぺースにある。また、この増加率は、民事一般事件の増加率のおよそ倍のペースでもあり、医療訴訟の増加は絶対数でも増加率でもうなぎのぼりの超勢といってよい。医療訴訟は、典型的な専門的な専門領域訴訟であり、必要審理期間は通常事件の2倍、3倍と遅延する傾向にある。通常の事件ならばせいぜいl年以内で解決する程度の事件が、医療訴訟ならば2年、3年とがかることになる。最高裁判所も専門領域訴訟の遅延傾向に、何らかの対策を必要とする認識のもと改善策を模索している。司法改革議論の中で、専門家(医師)を加えた参審制を導入すべきかどうかや鑑定人をいかにプールするかの議論も交わされている。ところで、医療訴訟の遅延傾向には昨今の厳しい金融情勢もからんでいる。多くの医師は医師賠償責任保険に加入しており、医療訴訟が提起されたとき、ほとんどの事件は損害保険会社のサポート、スーパバイズのもとに被告(医療側)の応訴対応がなされる。もともと医師賠償責任保険は、現在の20万人余りの医師や医療機関のすべてが加入したと仮定しても(実際には未加入の医師も相当数いる)、現行の保険料率のもとでは(医師個人では年間5万円前後の保険料負担)、せいぜい200億円前後の総保険金をまかなう財政規模と推計される。損害保険会社はこの規模を十分な財務環境と認識していないようで、医療訴訟増加、被告(医療側)敗訴率増加、金融情勢悪化の環境下にあって、できる限り画布のひもを厳しく締める傾向にある。これらのバックグラウンドから、和解によって解決ざれてもよさそうな事件もあくまでも判決が出るまで粘り腰を貫く、あるいは一審で敗訴しても上訴に至り勝ちである。
 もちろん、こうはいっても過失の明白な医療事故は、提訴前に示談で解決することが多いし、また提訴された事件も約半数は和解が成立する。敗訴に至ることが明らかに予想される明々白々な医療過誤事例について、被告側が粘りに粘ったところで敗訴判決に至れば、被告医療機関や被告医師にとっては法的責任を原告(患者側)に負うことが明確になるだけでなく、対社会的にもマイナスのパブリシティを付与されることになり、また損害保険会社は損金賠償額に判決履行までの金利を加算しなければならず、ともに訴訟を遅延させるインセンティブに欠ける。それゆえ、このような事件の多くは提訴前に示談で医療紛争は解決され、仮に訴訟に至ったとしても損害額の圧縮が被告側のモチーフの大半である。原告(患者側)被告(医療側)の両当事者が互いに護らず、裁判所の和解勧告も奏効しなかった、喩えていうならば「難治症例」が判決を受けるまで残ることになる。このような事件は、一般的に過失の有無、不良結果と診療行為の因果関係の判断が微妙なケースや患者へのインワォームド・コンセント形成や接遇の問題で両当事者間にルサンチマンの顕在・伏在するケースが多い。実務家の間で、このような事件の原告(患者側)の勝訴率は3割ないし4割といわれているが、最近は徐々に勝訴率も伸びつつある印象である。

3.医療訴訟と波紋

 医療訴訟の提訴が新聞報道されるのは日常茶飯事になっているが、その後の訴訟進行の様子は医療過誤特集でも組まれない限り報道されることは少なく、あとは散発的に被告(医療側)有責でいくいくら賠償せよという判決が出たと報道される程度である。このような判決出たからといって患者の多くが受診先を替えるといった現象は、明確に認められてはいない。このことから、「医療訴訟が提起されたり、その被告(医療側)が敗訴したという情報は、決して患者の医療機関選好に大きな影響は与ない」と強弁する被告側弁護士
もいる。確かに他の患者が医療の結果を不良と主張して医療訴訟に訴えたからといって、今すぐ自分の受診先を変更しようとする動きにはなってはいないだろう。しかし、冒頭でも述べた通り、市民は医療の安全性やインフォームドーコンセントについて大きな危惧悪を抱いていることは事実であり、より自分にフィットした医療選択や医僚機関選択を可能にしてくれる医療情報を渇望している。医療機関の広告規制緩和はこの
ような時代的潮流に呼応したものである。世はインターネットをはじめとするIT革命の時代に突入し、原告(患者側)が自分の訴訟の訴状、答弁書、準備書面、証人尋間内容等々を詳細に提示するホームページも増えつつある。病院広告をポジティブなパブリシティであるとすれば、原告側の医療訴訟レポートは非常にネガティブなパブリシティである。仮に、私自身が、ある病院をインターネットのサーチエンジン(検索手段)で引いてみると、患者の医療訴訟の体験レポートが飛び出てきて、医療事故の生々しい態様やインフォームドーコンセントをないがしろにした診療の物語が切々と語られているのに遭遇するとしたら、よほどその医療機関への受診が必須でないかぎり、受診することに躊躇を覚えるであろう。
 このような時代にあって、医療機関や医療者にとって、医療訴訟は法廷といった狭い空間の問題でなく、社会に対する、そしてまた未だ見ぬペイシャント、クライアントに対する強いアカウンタビリティを発揮すべき場といわなければならない。さもなければ、患者離れという大きなフィードバックを余儀なくされるだろう。

(平成13年4月号掲載)





 
リレー連載D
コミュニティとのリレーションシップ
―病院ボランティアの可能性
市山麻子
HCRM研究会

日本でも「ボランティア」という言葉が近年、急速に社会に浸透してきた。きっかけは阪神大震災でのボランティアの活躍だといわれている。最近では中学・高校生の教育のために、ボランティアを義務化させるかという議論まで巻き起こっている。今回は、医療における関係性マーケティングの中でも「病院ボランティア」の存在に着目し、病院とコミュニティをつなぐ役割について述べてゆきたいと思う。


1. 病院ボランティアの活動と歴史

 特定非営利活動法人(NPO法人)「日本病院ボランティア協会」(※1)によると、活動の内容は大きく分けて4つである。@患者さんの生活を豊かにする支援活動(話し相手、本読み、小児の遊び相手、学習指導、本の貸出、園芸、ギフトショップや喫茶部の運営、各種行事の企画運営など)、A病院の開放・市民参加活動(外来入院案内、受付案内、外国語・手話の通訳、子守り、裁縫・修繕など)、B患者さんの身辺雑事の補助活動(清掃、買い物の手伝い、花の水換え、おむつたたみなど)、C介護補助(食事介助、院内移動介助、入浴介助、配膳の手伝いなど)、である。各病院によってその活動内容は若干異なるが、たいていはこの分類に含まれる。
 病院ボランティアの活動の歴史は1962年にさかのぼり、産婦人科医の広瀬夫佐子氏がボストンの病院で働くボランティアを見たことをきっかけに、3人の美容師と一緒に大阪の淀川キリスト病院で活動を開始した。3年後には270名に増え、その後他病院でも導入されるようになった。また、自分や家族が病院にお世話になったことがきっかけとなって、地域の住民から自然発生的に「おむつたたみ」や「本の読み聞かせ」のボランティアが始まったところもある。活動は各地で地道に続けられ、その参加人数は年々増加傾向にある。

2.日本の病院ボランティアの実態

「日本病院ボランティア協会」(※1)は74年、病院ボランティアグループの連合組織として発足し、34病院が加盟した。(2001年2月8日現在138病院が加盟)病院ボランティアの全国組織としては唯一最大の組織である。ここでは、病院ボランティアの心得、研修プログラム、斡旋システムなどを作り、ボランティア間相互のレベルアップと発展をめざしている。なお、ここに加盟せずに活動しているボランティアグループもあるため、日本全体での活動者数はかなり多くにのぼっているとみられる。
 九州大学大学院人間環境学研究院(社会福祉学・ボランティア・NPO論)の安立清史助教授(※2)は、2000年3月、日本病院ボランティア協会の協力を得て、日本で初の大規模な病院ボランティアの調査・研究を行った。(※3)それによると、日本の典型的な病院ボランティア像とは、「性別は女性が90パーセント以上を占め、年齢は40歳代後半から70歳代前半が最も多い。活動は週一回3〜4時間が最も多い」。参加動機は「人生が豊かになる、社会貢献ができる、お世話になった病院への感謝、自分の勉強のため」などである。

3.病院ボランティア実際の活動


 それでは、いくつかの場所で実際に活動する病院ボランティアの紹介をしていきたい。
 日本には全国で10ヶ所ほどの「病院患者図書館」があり、このうちの数ヶ所ではボランティアが大きな役割を果たしている。ここでいう病院患者図書館とは、患者さんが自分の病気について調べたり、勉強するための医療情報図書・医学書(医学論文を含む)を自由に閲覧できる図書館のことである。室蘭の日鋼記念病院「健康情報ライブラリー」では、地域の「退職校長会」のメンバーが、また新潟県立がんセンター「からだのとしょかん」では「新潟ホスピスボランティアの会」のメンバーがそれぞれ中心となり、患者さんの病気への不安を受けとめるいやしの場を提供している。東京・聖路加国際病院の「さわやか学習センター」、浜松の聖隷三方原病院の図書室などでもそれぞれ訓練を受けたボランティアが活躍している。一般に、予算の都合で病院側が雇える司書は一名の場合が多く、職員図書室と患者図書室の両方を司書が運営することは難しいため、ボランティアが司書と連携して果たす役割はとても大きいといえる。
 また、日本でも緩和ケア病棟の増加に伴い、ホスピスや緩和ケア病棟でのボランティア活躍の機会も増えてきた。患者さんのQOLを重視するホスピスでは、様々なニーズに対応できるよう、医療従事者だけでなく、コメディカル、ボランティアをはじめとする多職種が関わる「チームケア」の手法がとられる場合が多い。
 上智大学社会人講座の中にアルフォンス・デーケン教授による「ホスピスボランティア講座」が開設されている。この講座は毎年4月から7月まで週一回の計12回の授業で、毎回現場のホスピス医、看護婦、ボランティアが講師となる。講義では、ホスピスの歴史、ボランティアの心構え、実際の活動状況などを説いていく。現在の日本のホスピス事情がコンパクトにまとまっており、ホスピスでボランティアをしたい人にとっての入門編として毎年200名の定員はほぼ満員である。この講座の受講をきっかけに、聖ヨハネホスピスなどのボランティア養成講座を受け、実際にホスピスボランティアをはじめる人も多い。動機は家族をホスピスで亡くしたことがきっかけであったり様々であるが、ターミナルケアの現場であるホスピスで活動することにより、「自分がなにかをしてあげる」ではなく、「患者さんから得る」ものの大きさに気づく場合が多い。患者さんとの出会いを通じて、ボランティアの人格が成長する。病院は、ボランティアにとって死生観を考える、教育の場となりうるのである。

4.病院側の受け入れ態勢

 このように市民の病院でのボランティア熱が高まっていく中、受入れ側としての病院の姿勢やシステムの確立が現在最も重要な課題となっている。竹内和泉氏(聖路加国際病院ボランティアコーディネーター、同病院元婦長)によると(※4)、聖路加国際病院では「病院をボランティアでいっぱいにしたい」という日野原重明理事長の理念のもと、現在300名を超えるボランティアが登録し、その中から毎日40〜50名が各持ち場で活躍しているという。ボランティアコーディネーターのマネジメントは、ボランティアの随時募集、毎月一回の面接に始まり、研修、適材適所への配置、シフト作り、活動していく上での困りごと相談やアドバイスなどで多忙を極めるそうである。聖路加国際病院ではボランティアを重要視しているため、専任のコーディネーターが配置されているが、このような恵まれた例はまだまだ少ない。病院をあげての取り組みと実践、聖路加国際病院はボランティア導入が成功しているモデルのひとつであるといえる。

5.ボランティアにやさしい病院づくり

 上記のような現状と問題点をふまえた上で、病院は今後どのように病院ボランティアの受入れ態勢を作っていくべきであろうか。一般に病院は専門職による閉鎖性が依然として高く、「素人を病院に入れる」ことに対する医療従事者の抵抗は根強いという。しかし総医療費抑制政策のもと、病院経営をめぐる環境はますます厳しくなり、職員だけで行えるサービスの種類にも限界が来ている。また、職員では手の届かない、患者さんに対するこまやかな配慮も必要となってくる。例えば、ライフプランニングセンターでは「血圧ボランティア」を養成しており、研修を受けることによって、医療の現場で素人なりに活躍できる場を作っている。おしゃべりをしながらリラックスして血圧を測ってもらえるため、病院という不慣れな場で緊張してしまう患者さんたちには好評だそうだ。ボランティアを積極的に養成・登用し、あらたなマンパワーとして活用すること、また地域コミュニティに開かれた病院として存在することはこれからの病院にとって欠かせない視点である。今まではどちらかというと「子育て後の主婦の活躍の場」とみられていたボランティアも阪神大震災やシドニー五輪以降、若い世代の関心も高まっており今後は幅広い年代層に広まる傾向にある。ボランティアの各方面での活躍の可能性は高まっている。これを受け、病院でも院長をはじめとするトップの理解、ボランティアコーディネーターを設置した上で院長や副院長直轄の組織体制をつくること、他の職員への理解を求めること、ボランティアの安全な活動を見守ること(ボランティア保険への加入、感染症対策など)、ボランティアの相談やアドバイスを受けるシステムを作ることなどはすべて重要である。また、欧米では「ファンドレイジング」(資金調達)を担当し、バザーなどで多額の活動資金集めをする専門のボランティアも活躍している。日本では医療法人に寄付ができないなどの規制があるため、現状は活動が制限されるが、これらの資金調達に関する税制の改正も必要である。
 患者さんにとっても、病院にとっても、そこで活躍するボランティア自身にとっても、「病院ボランティア」の活動が心の支えとなり、成長のきっかけとなるよう、ますます活動が発展し、これからも多くの人が参加するシステムができることを願う。

※1「日本病院ボランティア協会」
  http://www5a.biglobe.ne.jp/nhva/
※2「安立清史のホームページ」
  http://www.lit.kyushu-u.ac.jp/adachi/
※3平成10年〜11年度科学研究費補助金(基盤研究C2)
  「病院ボランティアの調査」安立清史
※4HCRM研究会 第2回研究会(平成12年6月17日)講演
  「病院ボランティアの活動―ボランティアコーディネーターの視点から」竹内和泉氏

(平成13年5月号掲載)


ホームページからは図表をご覧いただけません。詳細は掲載誌をご覧下さい。






 
月刊ナースマネージャ小特集@
患者とのリレーションシップ構築<前編>
−患者を取り巻く情報
ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング研究会/編

 医療に於ける情報開示については、「情報の非対称性」が問題となる。専門職である医療者は患者の疾病について多くの情報を持っているが、患者は専門職ではないため、そのことが情報の共有化を阻害し、ひいては「持つ者」と「持たざる者」との間の力関係の差につながってしまう、ということである。しかし現在、患者も自分の疾病について、様々な形で情報を得ようとする努力を始めている。今回は患者が医療についての情報を得るための新しい取り組みについて紹介していく。前編となる今回のキーワードは、「セカンドオピニオン」「闘病記」「インターネット」である。


    1.患者が納得できる医療を目指して  中村康生
    2.患者の思いに育てられた闘病記専門の古書店   星野忠雄
    3.インターネットを用いた生活習慣改善支援サービス「三健人」   大谷司郎



1.患者が納得できる医療を目指して

 

セカンドオピニオンを推進させる会代表 中村康生氏

 書籍『医者がすすめる専門病院』ができた経緯
 セカンドオピニオンを推進させる会」を設立させたのは1998年6月のことである。それまでは新聞記者をやっていて出版関係の部署に就いた15年前に『医者がすすめる専門病院』という病院ガイドを企画して以来、ずっと医療関係の仕事に関わってきている。
 この本を企画したのは自分が肝臓や膵臓の検査を受けようと思って大学病院を受診したことがきっかけだった。当時の病院内の標榜といえば「第一内科」「第二内科」「第三内科」と別れているだけで、膵臓の専門家はどこにいるのか全く分からなかった。結局、受診した医師は膵臓の専門家ではなかった。これでは的確な医療は受けられないと思い、何とか医療界に「意味ある地図」は作れないだろうかと検討した結果、医師自身がかかりたい診療かをリストアップすれば余市図ができるのではと言う結論に至り、選ばれた愛知県下の約600人の医師に取材してできたのが「医者がすすめる専門病院〜名古屋・愛知県版」である。
 新聞記者時代に「ライフ企画」という出版社を設立して以来「医者がすすめる専門病院」の全国展開をすすめている。その後、「東京都版」「神奈川県版」「埼玉・千葉・茨城県版」「山梨・栃木・群馬県版」「北信越版」などを順次出版した。すでいn49都府県を網羅しており、後は「東北北海道版」を残すのみとなった。この本にはスタッフ、症例数、手術件数、治療法、治療成績、医療設備、更にガンの5年生存率、心臓病の手術死亡率までもを収録しており、情報公開に近いことをやっていると自負している。

 なぜセカンドオピニオンが必要なのか
 このような書籍を出していると、様々な問い合わせがある。「紹介されている中でもどこの病院が一番よいのか」「こういう病気はどの科にかかったらよいのか」「医師が全く説明してくれないがどうすればよいのか」。書籍を出している側とすると、やはりこのような質問に真正面から答えていく責任があるのでは、という思いがあった。その一方で5〜6年前のその当時普及し始めていた、インフォームドコンセント(以下、ICとする)にも問題が生じてきていた。この2つのテーマに同時に応えられるのは、セカンドオピニオンの普及しかないということで、、新聞記者を辞めて「セカンドオピニオンを推進させる会」を発足させたのである。
 ICの「インフォーム」はどこまでいっても主観的な行為である。例えば手術をする場合に、当然メリットとデメリットとがあるが、そのデメリットをきちんと説明せず、都合の悪い情報をあまり出さないで手術に誘導すると言うことも往々にしてある。「確実に治る」とだけ説明して、一方では副作用があるなどの問題点があるにも関わらす、それを説明しないまま安易な形で治療が行われていることもある。
 ICという言葉は定着したが、現実問題として「仏つくって魂入れず」で、形式的にインフォームしさえすればICを看板に掲げられると言う感じすらある。そのようなICは医療者サイドのもので、患者の立場に立っていない。つまり医師が説明したつもりになっているだけなのである。
 三年前に当時の厚生相が行った終末期医療に対する意識調査で、「患者に対して納得の行く説明を十分にしている」と答えた医師の割合は88%だが、ある医学雑誌に載ったアンケートだと、説明が不十分など「医師の方針に疑問を感じたことがある」と答えた患者は47%いる。このギャップというのが今の医療やICに対する1つの問題提起ではないだろうか。医療者が考えているICと患者が考えているICにはかなり隔たりがあるのである。
 私は、この「インフォーム」の主観性に客観性を持たせるのにはセカンドオピニオンが最適ではないかと考え、「セカンドオピニオンを推進させる会」を設立させた。現在、東京・名古屋・大阪を中心に北海道から九州まで約700人の専門医にこの会に登録していただいている。

 求められる患者側の意識改革
 静岡県の聖隷三方原病院は、優秀な看護婦やスタッフがそろっていると患者からも評判が高い。同病院ではセカンドオピニオンを奨励しているが、そこでの悩みは「この病院でよい」という患者が殆どで、セカンドオピニオンを申し込む人が少ないと言うことだという。ICも徹底しており受けた医療に対する疑問を感じが人が非常に少ない。それだけ患者の立場に立った医療をすすめていると言うことだが、日本全体で見ると、医療者がすべき気配りがまだ十分でないようにも思える。
 厚生労働省もセカンドオピニオンを視野に入れて研究会などを作ったりしているが、上から与えられたものだけで根付かせるというのは非常に難しい。患者サイドが納得できる形で、試問運動的なものとして底辺から根付かせていかなければ本物にならない。
 セカンドオピニオンを求める患者の中に、ファーストオピニオンをしっかり聞いていない人がよくいる。「ファースト」があって「セカンド」があるのであって、「野球でもファーストベースを回ってからセカンドベースに向かうのがルールなのですよ」と説明するが、まずファーストオピニオンをしっかり聞くと言うことがセカンドオピニオンの出発点である。患者さんには「自分の命がかかっている瀬戸際なのだから躊躇しないで先生に時間をとっていただいて説明を聞いて下さい」とアドバイスしている。

 会の活動の実体
 2000年9月17日付の朝日新聞に,小さく会の名前と電誘番号が載ったが,それで1,OOO本以上の電話が入った。そのほとんどが医療相談であった。会としては,検査データが主治医から借りられること,ファーストオピニオンをきちんと聞いていることの2つの条件をクリアしていれば,申込用紙を送ってファックスか郵便で申し込んでもらうことになっている。会ができてからの2年間でセカンドオピニオンを受けた人は約200人である。そのうち9割は主治医とセカンドオピニオンの医師とが同じ意見だったが,あとの1割については何かしらの問題があった。誤診も10例ほど見つかった。
 一番大きな誤診は,愛知県の60代の男性の事例である。この男性は健康診断で食道に影があるので精密検査をしなさいと言われた。そこで近くの総合病院に行ったところ,食道がんだからすぐ手術をしようということになった。その時たまたま中日新聞に会のことが紹介されていたのを見て電話をいただいたので,愛翻県立がんセンターの内科と外科の医師を紹介した。ところがその二人とも「これは食道平滑筋腫で大きくならなければ手術することはない」という診断であり、誤診が明らかになったというものである。
 セカンドオピニオンを紹介するときに一番気を付けているのは、主治医よりもレベルが落ちないということである。主治医よりも症例数を多く見ていてより情報を持っており、且つ学閥が同じではない医師を紹介するようにしている。
 セカンドオピニオンを受けた医師が主治医と同じ意見だったというケースでも、患者にとっては主治医に対しての不信や不安などが解消されて,信頼感がより増したという声が多い。セカンドオピニオンを受けた後に「セカンドオピニオン結果報告書」を書いていただいて,7割くらいの方には返送していただいているが,大部分は「セカンドオピニオンを受けてよかった」という答えである。
 どのような時にセカンドオピニオンを受けるべきかについては,「手術を勧められた時」「治験を勧められた時」「地方の小さな病院で治療を受けている時」「介護保険を申請する時」などであろう。「介護保険を申請する時」というのには違和感があるかもしれないが,患者の状態がリハビリでかなりよくなるケースもあるので,介護保険一辺倒ではよくなる可能性の芽をつんでしまうことになる。
 例えば東京都老人医療センターの研究で,慢性心不全など心臓病の治療リハビリ指導などにチーム医療で取り組んだ結果の分析がある。同院では,1994年からチーム医療を試み、医師、看護婦、栄養士,MSWらが連携して、入院中に薬の飲み方,塩分や水分,栄養の取り方,リハビリの指導をし、退院補のホームヘルプサービスの活用、福祉面での相談にも乗っている。2年間に2回以上心不全で入院した患者のうち、退院後一年間について調べることのできた男性10人女性19人について、チーム医療前の1年間と後の1年間についてみていると、平均の入院回数は2.6から1.2に半減し、平均の入院日数も102日から38日に短縮された。寝たきりが18人から1人に激減し家の中を自分で歩ける人が2人から10人に増えた。屋外を歩けるOから9人になった。診療報酬から医療費を計算したところ,平均300万円だったのが,半減していた。
 高齢の心臓病患者は寝たきりになりやすいが,このような人に対してもチーム医療でこれだけ回復している。だから安易に介護保険ということではなく,申請する前に,リハビリの専門医にセカンドオピニオンを聞いてみることは意義のあることではないかと思う。

 セカンドオピニオンをめぐる今後の課題
 セカンドオピニオンに対する誤解として,「ドクターショッピングにつながる」「診療が重複して医療費の無駄遣いになる」という指摘があるが,それをなくすためにこの会を設立したのである。
 会では検査データの共有化を推進している。それを大前提としているので,検査の無駄が省ける。ある調査では,医師に不信を持って病院を黙ってかわったり,治療を中断したりしたことのある人は54%いるが,この数字こそがまさに再検査や再投薬など医療費の無駄になっているのである。セカンドオピニオンが普及すれば,結果として過剰な検査や過剰な投薬が行われていることがチェックでき,無駄な医療を抑制できる。患者にとっては自分が納得した上で最適な医療を受けられるというメリットもある。
 医療者に対してはICをもっと徹底すべきであると申し上げたい。国立がんセンターががん告知マニュアルをつくっているが,そこには「初診から治療開始までできるだけ同じ医師が担当し,人問関係や信頼関係が形成されていく中で告知をしていく姿勢が大切である。これにより,診断や治療の選択肢が複数ある場合に患者が冷静に判断できるという,本来のICが可能となる」とある。これは基本的なスタンスだが,医療者は最低限,患者がわかる言葉で信頼関係が維持できる形でのICということを前提にすべきであろう。その上で,主観的な説明にならざるを得ないICに,いかに客観性を持たせるかということを考えるべきである。こうした説明ができていないから,セカンドオピニオンを求めようという動きも高まってきているのではないだろうか。少なくともICを充実させれば,それなりに納得した医療を選択することはできると思う。
 患者側にも課題は多々ある。病気について勉強している人としていない人の落差が激しい。狭心症と診断されて,15年間抗狭心症剤を飲んだ患書から話を聞いたら、ただ聴診器を当てただけで狭心症と診断されたとのことだった。負荷心電図をとらない限りは狭心症の診断確定は狭心はできないが,それをせずに薬を出しているケースもある。そのような場含にセカンドオピニオンを受けるのはよいが,その前に狭心症とは何かと言うことについて位は患者自身が確認しておかないと、このように誤った治療が15年間も続けられてしまうと言うことになる。
 医療を受ける,納得して最適な治療法を自己決定する,ということは基本的な人権であるので,主治医に気兼ねすることなく,検査データの貸し拙しを申し出ることをしてもらいたい。最近では検査データの貸し出しを申し込んで断られたケースは少ない。医療者もかなり変わってきているという感触がある。さまざまな形で無駄遣いされている医療費は,一説には6〜8兆円あると言われる。セカンドオピニオンを推進することで,納得のできるところにお金を使えるようにしたい。薬を右から左に出せば数万のお金が動くが,ICをしても外来では一銭にもならない。お金の使い方が偏っているのではないだろうか。
 行政に対しては,ICとセカンドオピニオンについて,がんや心臓病など大きな痛気に限定して保険点数を設定するべきだと言いたい。病院では,あまりにも患者側が我慢することが多い。今までの医療をどのように振り返るか、それを基にこれからの医療をどう構築していくかが、今大きなテーマになっている。その中の一つとして、セカンドオピニオンを医療制度に組み込むことは必須なのではないだろうか。


セカンドオピニオンを推進させる会
   〒465-0048 名古屋市名東区藤見が丘7
TEL:052-760-0868 FAX:052-775-4727
   ◆ホームページ
    http://mediazone.tcp-net.ad.jp/Life/index2.html
    Eメール life-so@tco-ip.or.jp


2.患者の思いに育てられた闘病記専門の古書店

 

医療関係専門古書店「パラメディカ」 星野忠雄氏


闘病記専門の古書店「パラメディカ」
 私は現在,古書店「パラメディカ」を経営している。開店して3年ほどになる。「パラメディカ」は,闘病記専門の古本屋であ る。こう言うと,「闘病記専門の古本屋とは何なのか」「そのようなものが成立するのか」という疑問を抱く方も多いことと思う。実は商売としてはなかなか成立していない。しかし,商売としてでなくてもそのような書籍を求める需要が本当にあり,古本屋でしか手に入らないものがあるから続けている。
 店舗はさいたま市にあるが,ほとんど機能しておらず,たまに客が来たりすると私の方が驚いたりする。それ以外は,訪れるのは大抵知り合いの患者さんか患者会の方で,ひとしきり語し込んで,何も買わないで帰るというパターンがほとんどである。実際に本をやり取りしているのはインターネットのホームページ(http://member.nifty.ne.jp/PARAMEDICA)上である。これも1人で作っているので、大手の書店のサイトと比べるととてもシンプルなものだが、ある関西の大学の先生で患者の心理を研究している方がダンボール3箱分くらい注文してくださったり、病院の中から注文してきた患者さんがいたり,いろいろな出会いがあって,やめられないで続いている。

亡くなった妻への接し方の「確認作業」で古本を集める
 現在,在庫はおよそ13,000冊である。闘病記が170の病名別に700タイトルほど揃っている。主な病気だけでも3,000くらいあるはずで,決してそれらを網羅しているわけではない。むしろ,ある特定の部分に偏っている。なぜかと言えば,そもそもの開店の動機が私の妻の闘病にあったからである。私の妻は,1993年に3期の乳がんと診断され,1995年に再発転移して左肺の手術もうけたが,骨転移などもあった。最初の段階で乳がんという告知は受けていたので,再発した時も,私が病気に関してかなり徹底的に調べた。そして,そこで得たいろいろな情報を私が説明して,それを基に妻が決断するという形で闘病生活を進めた。
 妻は1997年の1月に亡くなったが,このことが闘病記専門の古本屋がやろうとしたきっかけのすべてである。なぜ闘病記かということは,妻が乳がんだったということと関係がある。初めの頃は自分でもなぜかわからないけれども,とにかく乳がん関連の闘病記をたくさん集めているという感じだった。しかし,振り返ってみると病気というものには,それぞれ社会的背景がある。つまり,この病気になるとこのような社会的な問題が起こるということが,病気ごとにある。同じがんでも,胃がんと乳がん,子宮がんや卵巣がんでは,それぞれ患者の悩みは違うだろう。
 乳がんでは,切除手術を受ければ,乳房が片方,あるいは両方なくなる。再建手術をする,あるいは温存療法をするとしても,プ ロポーションに大きく傷がつくということが患者の悩みである。歳をとれば気にしないかと言えば,そうではない。
 このように,治療のプロセスとはまた別の悩みがある。乳がん患者の団体である「あけぼの会」には,「夫の会」や「ヤングの会」もある。しかし,夫が乳がんの妻をどうサポートするかというのは大変難しい。
 私も夫のはしくれだったが,乳がんの闘病記をいろいろ読んだのはそこだった。妻が乳がんになった時にどう励ましたらよいのか,非常に微妙な問題を持っている。あけぼの会で全国大会が開かれると,メインの会場では先生たちが新しい抗ガン剤のの話をしたりするわけだが,2次会,3次会になると夫との関係がどうなったかという患者同士の話になるそうである。だから,問題は治療という部分にのみあるのではないと私は思う。もちろん治療も重要だが,問題は病気になったことによって家族との関係や仕事のことなど,いろいろな社会的な問題が起こってくることである。それにどう対処すればよいのかという情報がほしいのである。
 私もいろいろな本を集めて読んだのはそこである。最近の闘病記にはどのような治療法があったか,診断までにどのようなプロセスがあったかといったことまで書いてあるが,基本的には生き方の闘題である。私のとっては、介護する側が道接したらよいのか、を知りたかった。一番よいのは同じ病気になった他の患者に直接アドバイスがもらえることだが、それは現実には難しいことであり,次善の策として闘病記を探したわけである。
 妻が亡くなった1997年の2月に,私は勤めていた予傭校を辞めて,それまでに集めていた古本を整理したりして過ごしていた。そのうちにこれだけあるのだからもっと集めてみようと欲が出てきて,しばらく仕事をする気もなかったので,父親が持っていた貸しビルの6階に引っ越して,ビルの管理をしながらそこを拠点にして闘病記を集め始めた。
 この時点では古本屋を開くためにではなく,自分が読むために集めていたので,乳がんの闘病記を一番に探していた。これは「確認作業」のためであった。つまり,私の妻への接し方は「あれでよかったのかどうか」と言うことを知りたかったのである。もし妻が脇にいたなら、多分「いや、よくなかった」と言うだろうが。

「パラメディカ」の開店へ〜患者に闘病記が必要な理由
 このような経緯で闘病記を集めていたが、乳ガンの闘病記を集めるのには大変苦労した。あるはずだが見つからない。題名に乳ガンという言葉でもないと、国会図書館などで検索しても引っかかってこないのである。ところが、見付けてみると実は60冊以上あった。これでは「もしこれから乳ガンになった人やその家族が乳ガン関連の本を探す場合でも、とても苦労するだろう」と思った。それなら私が探したリストをインターネットに掲載しておけば、そうした闘病記を探すのにも便利だろと思い、本を集めながらホ−ムページの準備を少しずつ進めていた。
 闘病中の患者,あるいはその家族が知りたいことは,治療法のことばかりではない。ネット上ではメルクマニュアルを調べることもできる机そこに書いてある一般論や総論を患者は知りたいのではなくて,病気になって具体的にどうだったのかという,個人的な体験を生身の声で聞きたいというのが本当のところだろうと思う。その部分で闘病記は役に立つと考えた。
 このような紆余曲折があって闘病記専門の古書店「パラメデイカ」は開店したが,ホームページを作って定価の半額で売ることをPRしても,最初の頃は1週問してもメールが1通も来なかった。そのような中での初期のお客さんが膠原病の患者さんだった。全身性エリマトーデスで病院の中からメールをくれた。ほかにも偶然,何人もの膠原病の患者さんからメールをもらった。私はがんからスタートしたが,膠原病で人工関節に取り替える手術をした患者の闘病記を読んで衝撃を受けたりしたことがあった。今はステロイドなどをうまく使えばある程度快適な生活を送れるようになっているはずだが,一昔前の闘病記はかなり深刻なものであった。ところが,その膠原病の患者で,まさにその本を注文された方がいた。あまり酪な内容のものを売るのは気が引けたので,「最近は膠原病の患者のホームページもあるので,そちらを参考にした方がよいのではないでしょうか」というメールを出した。
 しかし,いわゆる自己免疫疾患の患者には自己免疫疾患の患者の悩みがある。全身性エリマトーデスは主に30代後半から40代の女性がなる病気だが,ステロイドを使うので,顔は丸くなる,食欲で太る,姪娠や出産もひょっとしたらダメと言われるかもしれない,など生きていく中での悩みがある。極端に疲れやすくなって,今までは会社でもバリバリ働けたのに,午前中働いたら疲れて帰らなければいけなくなったりする。そうした部分での悩みがかなりある。
 私などは「病気なのだからしばらくは『お嬢様モード』になって大切にしてもらうようにすれば」と言うが,現実はそうはいかない。そうした悩みには,やはり同じ病気にかかった人のアドバイスが一番効果的なのではないだろうか。乳がんにかかった人に対して,同じ内容をアドバイスするにしても,相手の心にすっと入っていくのは,同じ病気の体験者の言葉である。だからこそ,闘病記だけでなく闘病関係のサイトも必要だろうと思う。いわば,ピアカウンセリングの考え方であるが,そうしたことから,「パラメディカ」のホームページのリストにある闘病記の数が増えると共に,そこにリンクされている闘病関係のホームページの数も増えていった。
 ただし,こうした闘病記や闘病記サイトの問題点としては,当然ながらこれらはあくまで個人的な体験で一般性はないということである。しかし,逆に患者が欲しているのは一般論ではない。闘病記を書いた患者が受けた治療が自分にも当てはまるかどうかといったことではなく,ただたくさんの情報を知りたいのである。読んだ途端に目の前が真っ暗になるような情報であっても,患者には必要なのである。
 医療者側から見ると,読まない方がよいよという本がある。私も注文された本について「書かれていることは昔の治療だし,主人公も亡くなってますから,読まない方がよいですよ」と返事牽書いたりする・長いことやっていると,こちらの方で提供する情報をコントロールしてあげようという気になる。しかし,実はそれは間違いである。たとえマイナスの情報であってもすべて自分で情報を得て,自分でそれらを参考にして,自分で結論を出したい,というのが患者の思いなのである。
 最近思うのは,死というものを自分の頭からできるだけ外して考えようとすると,あまりよい結果にはならないということである。人間というのは100%死ぬものだということを認めた上で闘病記を読む読者も多い。実際,そのような死についての本のリクエストも増えているので,私のホームページには葬儀についての本のリストも足していった。闘病記のサイトに「デス・スタディ」はよいとしても,葬儀について考える本があるのはどうかとも思ったが,関心を持つ人は多い。死は無視できない,そしていつか目の前に来るものであり,それをことあるごとに排除していけば,最後の最後に悲儀な結果になるというのは確かである。

「病気を持った人の生き方」について情報を
 ここ数年でかなりの数の患者団体がホームページを作っているが、個人の闘病記のホームページを充実してきており、そうしたサイトへのアクセス数もかなりの数に上る。それだけ情報を求めている人が多いということである。
 闘病記についてのホームページが増えているのは,自費幽販ではコストが高いからという面もある。だいたい200万円はかかる。本は1万部を超さないと利益が出ないとも言われ,数千冊刷っても元が取れない。仮に1万冊刷っても,今の流通システムから言うと,無名の著者では読者の元に届くのは200冊くらいのもので,残りは出版杜に戻ってきて,古本屋などに流通すれば幸運,大半は故紙となる。だから闘病記を探すのも苦労するのである。こうしたことから考えても,今後闘病記はますますホームページに移ってくるのではないかという気がする。
 本にするまでではない、個人でホームページを作るまででもない、ただ自分の経験したことを伝えたいという方は結構いる。あるホームページではそうしたものを集めて,ダウンロ一ドできるようにしているところもあるが,それをもっと体系的にできれば面白いのではないかと思っている。そのようなことも含めて今後も闘病記を中心とした「病気を持った人の生き方」についての情報提供の方法について考えていきたい。


古書店「パラメディカ」
   〒336-0011 埼玉県さいたま市高砂2−2−1 ほしみつビル6F
TEL/FAX:048-825-7951
   ◆ホームページ
    http://member.nifty.ne.p/PARAMEDICA/
    Eメール GFB01262@nifty.ne.jp


3.インターネットを用いた生活習慣改善支援サービス「三健人」

 

株式会社NTTデ−タビジネス企画開発本部ヘルスケア・グループ大谷司郎氏


「三健人」とは何か
 私共のところではインターネット上で「三健人」というサービスを行っているが,これは生活習慣病を予防するために生活習 慣を改善していくのを支援していくサービスで,ホームページとメールによるアドバイスを行っている。この「三健人」のようなネットでできるサービスと医師や看護婦・保健婦による実際のリアルなサービスとが,どのような関係性を持ってやっていけるかが,私共が考えているテーマである。
「三健人」ではネット上に多くのコンテンツを作った。その中には「健康トピックス」のようなものもあるが,その部分は無料で,利用者によってカスタマイズされている部分が有料となっている。
これをどのようなところが利用しているかというと、主として企業で健康管理を担当している部署や健保組合である。健康診断は病気の発見に使っているに過ぎないと言う声を聞くが、実際疾病予防や健康増進という部分に花か結びついていない。それを補うためにこうしたツールでアフターフォローを行い、現在健康な人に生活習慣を見直してもらい、病気を予防してもらおうというのが「三健人」の考えである。もちろん個人で加入することもできる。

「三健人」によるサービス提供の実際
 現在,生活習慣病が大きな問題である。NTTデータ自体はもともと大型のシステムが得意だが,一人ひとりがネットでつながる という時代に,ヘルスケアの部分で何ができるかということを研究テーマにしており,その中で生活習慣病予防で個人個人に働きかけをするという,インターベンションの部分で,この「三健人」のようなツールが使えるのではないかと考えた。
 それでは,予防をどのように行っていくかということを考えると,現在の主流は「アクション・オリエンテッド」ということになる。企業で健康増進といった場合,どちらかというと「目標」が先にあり,それに向けて頑張りましょうという働きかけが多い。「三健人」ではせっかくインターネットで一人ひとりに働きかけができるので,行動科学や心理学の理論を用いて一人ひとりの気持ちに応じた働きかけを行うことを考えた。そこでその分野の専門家にも入ってもらって,一人ひとりにその気になってもらうアプローチ,「わかっているけどやめられない」という部分を変えていってもらえる支援をやりたいと考えた。「三健人」とは,このように「行動変容」を支援するサービスだが,概要は次のとおりである。利用者はインターネットで「三健人」のホームページにアクセスし,まず「生活習慣チェック」という,健康診断の時に聞かれるような質問に答えてもらう。サービスを始める前に健康診断のデータを入れられる人にはそのデータも入れてもらっている。それらを基に実際にアドバイスが行われる。アドバイスは行動科学などを踏まえたもので,電子メールで週1回届くようになっている。「三健人」には「パーソナルホーム」と呼ばれる個人専用のぺ一ジがあるが,そこには自分の健康診断の結果のデータがどうかということを時系列に表示する「マイデータ」という機能があり,それを見て健康に対する気づきを得てもらいたいと考えている。「ライブラリ」には,「健康トピックス」として「中性脂肪とは何か」というような健康に関連のあるテーマを選んで2,000くらいつくっている。「コミュニティ」はフォーラムになっていて,そこに書き込みをしてもらってユーザー同士の交流をしてもらったり,専門家やわれわれスタッフが入ってさまざまな情報のやり取りをしている。その他にイベントととして「オフ会」のようなものも考えている。「Q&A」では,健康上のことについて質問をしてもらえる。
 具体的に参加者はどのように参施するかと言うと,一人ひとりのホームページに入ってもらい,改善したいジャンルを各自で選んで生活習慣改善に取り組むということになる。ヘルスケアはこれからは広い意昧で,予防,治療、そしてアフターケアというように,長い軸でとらえていけばよいのではないだろうか。その予防という部分で,食事,運動,禁煙,ストレス対策,節酒というように生活習慣を改善するプログラムを提供している。糖尿病,高血圧,高脂血症に対するプログラムについても開発検討中であるが,これは医師に代わって治療をということではなく,一般的な情報を個人に合った形にカスタマイズして読んでもらい,2次,3次予防のための生活習慣管理のプログラムとしている。

行動科学を用いた行動変容
 行動科学では目標を立ててその実践に取り組むこと重要だといわれているので、その行動目標を立ててもらうためのツールや実行した履歴を管理するためのツールもいくつか用意している。
 では行動科学をどう使っているかと言うと,ステージ理論をサービスの中に取り入れている。ジェームス・プロチャスカという学者がトランス・セオレティカルモデルを提唱しているが,要は「人の気持ちに応じた働きかけをする」ということだと考えている。例えばタバコを例に取ると,禁煙しようと考えていない無関心期にいる人と,6ヵ月くらいの間には何とかしたいという感心記にいる人、実際に禁煙に取り組んでいる実行期の人がいる。実行期では6ヶ月くらい経てば一応禁煙できたと考えるが、そのフォローアップとして禁煙の継続期というステージに入る。これらのステージに応じた働きかけを考えるのがトランス・セオレティカルモデルと言い,それを取り入れている。
 無関心期の方に実行期の人と同じ情報を提供しても聞く耳を持っていない。われわれがステージに応じたさまざまな働きかけをすることで,参加者のステージがどんどん遷移していき,最終的に実行期に入っていただくというのがサービスの目的である。
 行動科学で言えば,もう一つスタンフォード大学のバンデューラが言う社会的認知理論がある。それによれば,行動を変えるためには「自己効力感」と「結果期待感」という2つの重要な要素があるとされている。「自己効力感」というのは「自分はできる」と思えることで,「結果期待感」とはそれをした結果は大きいと思えることである。禁煙についてもこの2つの要因を高めることで,「化活習慣の改善は大変だけどやってみよう1ということで,行動に結びつくのである。
 このような観点から,ステージごとにメールでこの2つのファクターを高めるような働きかけを行っている。無関心期や閑心期には健康意識を喚起することが一つの目標になる。準備期には行動変容に対するコミットメントを行い,実行期にはいい循環を形成する働きかけ,悪い刺激の回避する知恵などをアドバイスしている。

パイロットサービスの結果から
 このサービスを2000年2月から始めたが、その前に1998年の4月からパイロットサービスとして試験的に行い,6団体の2,105名に参加してもらった。その人たちが実際に行動変容したかどうかを見てみると,パイロットサービスではタバコと運動と食事の3つのサービスのみでやっていたが,いずれも25〜40%の人がステージアップしているという結果が出た。一番厳しかったタバコでも,それなりの成果が認められた。いずれのサービスにおいても継続的な働きかけが重要ということが読み取れた。
 このような結果からも自立的能力の開発という点から,情報を正しく伝えることで自らが健康になっていく力を支援していける部分があるのではないかと考えている。



(株)NTTデータ ビジネス企画開発本部ヘルスケア・グループ
   〒135-6033 東京都江東区豊洲3−3−3 豊洲センタービル
TEL:03-5546-9281 FAX:03-5546-8492
   ◆ホームページ
    http://www.health.ne.jp/
    Eメール info@health.ne.jp




 
月刊ナースマネージャ小特集A
患者とのリレーションシップ構築<後編>
ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング研究会/編

  医療者-患者関係が変わりつつある現在,医療者も患者との新たな関係の構築について考える必要がある。そうした中で医療者と患者とつなぐパイプ役としての患者会の役割が改めて注目されており,同時に医療者もこうした患者会とこれまで以上に積極的に連携を強めていく必要性が指摘されている。今回は患者や患者会をサポートする活動を続けている根本氏と,乳がん患者の会である「イデアフォー」の世話人である青木氏に患者会を取り巻く現状と,医療機関との連携のあり方について語っていただいた。


    1.患者会インタビューを通じてわかったこと  根本悦子
    2.乳がん患者会「イデアフォー」の活動  青木栄子



1.患者会インタビューを通じてわかったこと

 

患者のネットワーク編集委員会 根本悦子氏

 患者は気持ちを受け止めでほしい
 私は「ふれあいの医療ガイド」という本を1991年につくったが,この本にはその時点で集まった700の患者会が収録されている。私がこの世界に入ったのは,1984年に「まともな食べ物ガイド」をつくったのが最初である。その後「ふれあいの医療ガイド」の出版を目的に「出会いの医療をつくる会」をつくったのが1986年だったから,本になるまでに5年かかったことになる。当時はとにかく情報がなかったので,2年間かけて,全国紙3紙の縮刷版を見て,医療関係のグループの記事を片っ端から抜き出していって,分野ごとに分類するという作業を地道に行った。
 このことがいざ新聞などで紹介されると,私のところに電話や手紙が殺到した。わらをもつかむ思いで「このような診断を受けてこのような治療をすることになったがそれでよいのでしょうか」といったような思者の不安の声が寄せられ,仕事にならないほどであった。それがきっかけで御茶ノ水に「健康医療ガイドセンター」という相談機関をつくった。そして,医師や看護婦,薬剤師ら専門家にボランティアで参加していただき,毎週21回電話相談を行った。その電話の内容を振り返ってみると,電話をかけてきた人の8割くらいは「白分を受け止めてほしい」というケースだったように思う。
 ドクターショッピングと言うらしいが,複数の病院を受診するなどして,必死の思いでいろいろな医師に話を聞いているが,誰にも自分を受け止めてもらえない。「大変ですね。まずはご主人ともよく話し合ってみたらどうですか」という,そのひとことを聞きたいがために電話を掛けてきているというケースも多かった。
 もちろん治療的に問題のあるケースには,その都度専門家のアドバイスが必要だったが,それ以上に自分の気持ちを受け止めて欲しいために電話をしてきた人が多かったと言うこの現実は、何を物語っているのだろうか。
 それは患者というのは医療の技術的なことだけを問題にしているのではないと言うことである。医療を受けながらもどう生きていくか、自分らしく生きていく意味をどう見付けてくるか、抑も自分らしい生活とは何か、ということに関心があるわけである。医療は残念ながらそうしたニーズに応えるほどには、暮らしや生活に関心を向けない。治療や看護のことに主な関心があるその辺りで患者が求めていることとギャップができているのではないかと思う。

患者会に対して医療ができるサポート
 書籍を刊行するプロセスで多くの患者会を取材した。活動して良かったと思うことについては,「経験者や専門家の話で自分や家族の障害がどのようなものかよくわかるようになった」,「経験者の語から生活していく上での知恵やコツを学んだ」,「お互いに力づけられ,新たに生きていく勇気がわいた」,「人生の主体は病気や障害を持つ自分たちであり,治る治らないという医学の基準で人生をあきらめるのではなく,病気や障害をよく知りなガら自分らしく生活することを知った」といった声を聞いた。一方,活動していく上での問題点については,「活動に協力してくれる専門家が得にくい」「活動に関する医療僑報や制度情報の入手に苦労している」ことを拳げる人が多かった。
 こうした患者会に対してはどのようなサポートが必要なのだろうか。患者会は医療機関から得られないサービスを患者に提供し、自分らしく生きていけるためのヒントを提供しているという面がある。いわば医療機関の不足部分を補っているという側面があるのだが、こうした側面を理解し支援していく専門家がまだまだ少ない。
 こうした問題を解決する方法として専門家にできることは、まず家族や本人に対して十分に説明することである。当たり前の話だが、これができていない。もう一つは何と云ってもこうした患者会への支援を医師や看護婦を始めとする医療関係者が積極的に行うことである。具体的には、場所や備品の提供、患者への紹介,学習会やイベントを共に行うことなどが考えられる。

医療の抱える問題解決に果たす患者会の役割
 一番問題なことは,患者会が行っているさまざまな問題提起や提案などを,医療現場の中にフィードバックしていくしくみがまったくないことである。市民活動を社会的に認知させなければいけないと考え,「シーズ」という市民活動を支える制度をつくる会をつくった。NPO法案が通ってようやくこうした団体が法人格を取得できる道が開かれたわけだが,今まで行政の支援の大きな壁は,この法人格がないということであった。
 今のところ,NPO法人格をとってもメリットはさほどないが,今後税制優遇策が検討され実現すれば,展開も変わってくる'だろう。湊人格を取った団体は社会的な責任も出てくるであろうし,そうすればそれなりの成果や信頼性も問われてくることになるだろう。患者会もこうした方向で持っている者を蓄積し、社会に還元していく体制を作るということが大事であろう。医療機関に目を向けると,医療サービスの評価システムがないのも問題である。関西消費者連合会が年間1万件の電話相談を受けているが,6割が医療に関する相談だという。その中で一番多いのが「どこが一番よい病院なのか」という相談である。自已評価の システムがないのは致命的である。医療機関に限らず,組織においては「チェック・アンド・バランス」が大事であり、このチェック機能は崩れると最近の雪印乳業や三菱自動車の事件に見られるような問題がでてくる。こうした事態を回避するための方策として,医療機関が患者会と連携していく必要も今後ますます高まると考えている。




2.乳がん患者会「イデアフォー」の活動

 

イデアフォー世話人・渉外担当 青木栄子氏

 イデアフォーとは
私の本職は英語の教師です。1992年に右胸乳がんを乳房が残る乳房温存療法で治療しました。2000年の4月には,左の胸に新しいしこりを発見し,それを5月に再度乳房温存療法で手術しました。今はおいしくご飯が食べられること,犬の散歩ができること,そんな小さなことが嬉しくて感謝の気持ちでいっぱいです。
 乳がん体験から医療を考える会イデアフォーは,1989年に乳がんを乳房湿存療法で治療した患者を中心に発足した市民団体です。患者会という側面を持つ市民運動体で,医療を変えようという明確な意志を持って活動しているグループです。この「患者会でありながら医療を変えようと活動している」というところが,このイデアフォーの特色だと思います。
 イデアフォー発足当時は乳房切除ばかりが行われており,乏しい情報の中から乳房温存療法にたどり着くには大変な努力が必要でした。乳房が残る上に生存率は切除の場合と変わりません。この治療法が,なぜ患者に知らされていないのでしょう。欧米ではその当時,既に標準治療法として確立されていた温存療法が,なぜ日本では知られていないのでしょう。私たちは医療情報の乏しさ,医療の閉鎖性に愕然とし,インフォームドコンセントの推進を第一の目的に活動を始めたのです。イデアフオーの活動目的は3つあります。1つ目はインフォームドコンセントの推進です。インフォームドコンセントとは「十分な情報を得た上で患者自身が治療法を選ぶ」という,患者が主体の理念です。その根底にあるのは、患者の汁権利と自分のことは自分で決めるという自己決定権です。けれども日本では医師が患者に説明をするという部分ばかりが取り上げられ、本当の意味でのインフォームドコンセントの定着は遅れていると思います。
 2つ目は医療情報の収集と提供です。患者が正確な医療情報を手にすることが、患者本位への医療へとつながります。患者が納得して治療法を選択するためにも患者自身が勉強し、十分な医療情報を持つことが必要です。残念ながら日本の医療はまだまだ閉鎖的で、患者への情報公開はあまり行われていません。イデアフォーは様々な医療情報を収集し、提供しています。
 3つ目は,乳房温存療法に関する情報の収集と提供です。イデアフォーは講演会,セミナー,本の出版を通して,乳がん治療には乳房を残す温存療法があることを知らせてきました。しかし,イデアフォーは「あなた,温存療法にしなさい」というように温存療法を勧めることはしません。情報提供はしますが,どの治療法を選ぶかは患者自身が決めることだからです。
 温存療法は最近ではやっと30%の実施率となりましたが,私たちイデアフォー発足当時の実施率はわずか5%でした。それが11年かけてやっと30%以上になったのですが,欧米の60〜70%という実施率と比べるとまだまだ大きな差があります。日本のどこにいても温存療法が選択肢として提供されるように,日本の医療が変わっていくことを願っています。
 イデアフォーは医療を変箪しようという「アドボカシー」の活動と「患者会」の活動を両輪で行ってきました。具体的活動は多岐に渡っていますが、まず年4回の「イデアフォー通信」の発行があります。乳がんなどに関する各種の情報を掲載し、開院や医療従事者、メディアに送付しています。次にセミナー・講演会を開催しています。これまでに取り上げたテーマは、乳房温存療法、放射線治療、抗ガン剤、癌治療、ホスピス、インフォームドコンセント、医薬品の認可、乳がん再発転移、臨床試験、緩和ケア、CASP(Critical Appraisal Skills Programme=医学論文を批判的に吟味する方法を身につけるためのワークショップ)などです。
 また,アンケート調査と調査緒果を冊子にまとめ,1995年と1999年に「乳がん治擦に関する病院&患者アンケート」として自費出版しました。その中にある全国270病院の乳がん治療状況一覧表は,どのような乳がん治療がそれぞれの病院で行われているかがリストになっており,高い評価を得ました。この冊子は患者の側からの医療情報公開であると言えます。これ以外にもイデアフォーの本としては,「乳がん・乳房温存療法の体験」(時事通信社,1993年),「わたしが決める乳ガン治療」(三天書房,1997年),「乳がん治療・日本の医療〜イデアフオー講演録」(イデアフォー新書,1999年)などがあります。無料電話相談も行っており,乳がん体験番どして治療法や抗がん剤,放射線,病院に関する情報を提供していますが,毎月70〜80件くらいの相談があります。また毎月第4土曜冒の午後に,乳がん患者の交流会「おしゃべりサロン」を開いています。ここでは,いろいろな病院の冶療状況や自分たちの体験などを情報交換しています。やはり乳がん患者は患者同士、思いっきりおしゃべりしたいものなのです。更に「おしゃべりサロンSpecial」という再発転移をした方とその家族に限った会も3ヶ月ごとに開いています。
 アドボカシー的な活動としては,コクラン共岡研究日本支部に医療消費者の立場で実施しています。イギリスで始まったコクラン共同研究は・世界中の臨床試験を再調査し,一製薬会社,研究者寄りでない公正な結果を出し,利用者の意思決定に役立てようというものです。
 また,納得できない医療行政やテレビ番組には抗議もしています。厚生省(現・厚生労働省)へは,健康政策局が1995年に出した,「インフォームドコンセントのあり方に関する検討会報告書」について,@インフォームドコンセントを患者の権利としてとらえていない,A法制化に否定的である,B非公開である,C委員の構成が偏っているなどの問題点をまとめ,市民団体として唯一要望書を提出し,担当官と話し合っいました。乳がんの術後補助療法としての経口抗がん剤であるUFT(テガフール十ウラシル)と,多剤併用療法であるCMF(シクロフォスファミド,メトトレキサート,5一エフユー)の比較臨床試験中止を求める運動も行っています。これは1997年から国立がんセンターが中心となって実施している臨床試験ですが,UFTとCMFの比較に妥当性がなく非倫理的だとして中止を求める要望書を国立がんセンターに送っています。
 術後の抗がん剤治療としては,多剤併用療法のCMF,CAの2つが世界的な標準治療法として確立しています。UFTは日本のみで使用されている「ローカルドラッグ」で,CMFに匹敵するほど有効だとする論文もありません。科学的根拠のある治療法CMFと根拠のない治療法UFTとを比べる試験に妥当性はありません。CMFなら助かる患者もUFTでは再発しかねません。この臨床試験の問題点を「日本の臨床試験に関する患者の懸念」という英語の論文にまとめて,著名な医学誌であるイギリスの『ランセット』に投稿したところ,1999年3月にこれが掲載されました。日本の市民団体の論文が『ランセット』に掲載されたのは初めてのことでした。

イデアフォーの活動の成果と医療の抱える問題点
 イデアフォーを含むいくつもの市民団体の活動,医師の情報公開やメディアの力によって,インフォームドコンセントは以前に比べるとかなり普及してきました。イデアフォーの活動の成果としては,まず乳房温存療法の普及が挙げられます。
 ただ,温存療法の普及に伴い,質の面でさまざまな問題が生じています。1990年,NIM(アメリカ国立衡生研究所)はI期の乳がん(腫瘤5cm)までを温存療法の適応としましたが、1999年の日本乳がん学会「ガイドライン」の実施墓準は3cm以下です。日本では,実施墓準がバラバラで5cmのところもあれば,3coや2cmの病院もあるのです。以前なら「温存療法をやっていない」と言われれば、実施している病院に行けば良かったのですが、今の問題点は「ウチは温存療法をやっているが、あなたの主要は3cmを越えているので温存療法の適用にならない」などといわれることです。そして手術後に3.5cmの腫瘍でも温存療法を行う病院があると分かって、死ぬほど悔しい思いをしている患者がいるのです。
 抗がん剤治療やホルモン剤治療も病院ごとに異なっています。3年に1度,世界的権威が集まる「乳がん国際会議」で術後補助療法に関する標準治療法が定められ,世界中に発信されるにもかかわらず,日本ではこのような情報が普及しないという問題があるからです。こうした乳がん治療の問題点は乳がんだけではなく,恐らくどの病気にも共通すると思われます。
 活動のもう1つの成果は患者が変化したことです。学習する患者,自立性を持った患者の出現です。「お任せ医療」を拒否し,治療について勉強し,主体的に医療にかかわる人たちが出てきました。それは電語相談にもよく現われており,4年ほど前まではセカンドオピニオンを勧めても医師への遠慮から消極的な人が多かったのですが,最近では医師に検査資料の提出を要求し,それを持って別の病院に行くという患者が増えてきています。ほかには医師の変化が挙げられます。患者がセカンドオピニオンを求めた時に,ほかの病院宛に資料を出す医師が増えています。乳がん治療に関して言えば、複数の治療法とそのメリット・デメリットをきちんと説明する医師の数もかなり増えてきました。患者が医療に参加することがよりよい医療につながるという意識を持った医師が確実に増えていることは、私たちにとって非常に嬉しいことです。

 患者と医療機関の間の望ましい連携のあり方
 私自身が考える患者と医療機関の望ましい連携は、まず患者が医療機関を信頼できることから始まります。最近このように医療過誤が頻発したり、患者に対して説明がなされなかったりという場合は、医療機関を信頼することはできません。患者と医療期間外ままでのような「上下関係」でなく、互いに信頼し、連携していくために一番大切なのは、「医療の主体は患者である」と言うことを双方が認識することだと思います。実は患者の中もこの事を認識していない人が多いので、患者自身も変わっていかなくてはなりません。
 医師のパターナリズムや,患者の「医師にお任せ」という姿勢では,望ましい連携は有り得ません。医師が思者に十二分に説明し,患者自身が治療法を選択することが肝心です。特に医療の効果が不確実ながんや慢性病の治療を医師に決定されては困ります。また,病院に対しても欧米の病院のように治療内容や治療実績などの情報を公開することを希望します。このような情報公開があれば,病院と患者の連携はさらに望ましい形で進んでいくと思われます。
 今回新たに乳がん患者となり,痛感したことは、治療法がバラバラで.世界的な標準治療法が普及していないということです。私が治療を受けた病院のように,質のよい温存療法を提供しているところには大変な数の患者が集まってきます。そうするとその病院では以前のように十分なインフォームドコンセントが行われなくなってしまう虞もあります。
 質のよい温存療法が標準治療法として日本中に普及すれば,特定の病院に患者が集中することが避けられます。ですから,乳がんだけでなくすべての病気の治療法が標準化されることを望んでいます。病院ごとに治療法がバラバラでは,患者は安心して治療を受けることができず,安心できなければ連携は進まないと思います。
 医療機関に対していろいろ言ってきましたが,患者も「自分の体は白分で守る」という自立性を持つことが大切です。そして,「自分が選択した治療の結果は白分が引き受ける」という気概を持つことが必要だと思います。
 インフォームドコンセントや病院の情報公開が進み、医療従事者と患者とが共通の情報を持つようになったとき、始めて望ましい連携が生まれるのではないでしょうか。